<東北の本棚>医療確保 住民自ら行動
[レビュアー] 河北新報
「体の調子が良くない時に、いつでも病院で診察してもらえるって、何とありがたいことだろう」。新型コロナウイルスの感染拡大は、思いがけずこんな当たり前の事実に気付かせてくれた。市民にとって医療は最も基本的な社会資本の一つであり、今回は切迫する現場の状況が世界規模で注目されたのだが、過疎に悩む地域は、そんな危機と日常的に向き合っているのだ。
秋田県厚生農業協同組合連合会が運営するかづの厚生病院(鹿角市)で2006年、精神科の常勤医師がいなくなった。医師を派遣していた大学が人員不足のため引き揚げたのだ。本書は地域を守るために住民が主体となって「鹿角の医療と福祉を考える市民町民の会」を設立し、医療関係者や行政を巻き込み行動する姿を描いている。
「あえて敵をつくらない住民運動」をコンセプトに、昨今の医療政策の被害者ともいえる病院・行政・大学医局と情報を共有。大学からの派遣が期待できないならフリーの医師を「一本釣り」すべく、北海道から沖縄まで全国の道の駅に募集のチラシを置いてもらうなど活発に運動を展開した。
18年には2人の精神科常勤医師が、かづの厚生病院に赴任。住民たちの運動が実を結んだ。しかし、この年はまた、同病院から産婦人科医師が撤退した年でもある。市民町民の会は、新たな住民団体「鹿角の産婦人科を守る会」とともに、地域医療のあるべき形を探り続けている。
本書では鹿角とともに全国の運動も紹介。医療を守るためには住民がエンジンとなって、医師が住みたくなるような地域をつくり上げていくことこそ大切と強調する。
著者は秋田県厚生連職員、同労働組合専従職員を務め、現在は秋田を拠点に各地の地域医療を支える活動を行っている。(又)
旬報社03(5579)8973=1430円。