白人ナショナリズム 渡辺靖著

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白人ナショナリズム

『白人ナショナリズム』

著者
渡辺 靖 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784121025913
発売日
2020/05/20
価格
880円(税込)

書籍情報:openBD

白人ナショナリズム 渡辺靖著

[レビュアー] 加藤聖文(歴史学者・国文学研究資料館准教授)

 映画「ジョーカー」は、白人の主人公が挫折のなかで極悪人に変貌(へんぼう)する物語。作品としての評価が高かったが、私は見終わった後、不快な気分しか残らなかった。しかし、本書によると白人ナショナリストで共感した人が多かったそうだ。確かに、一方的な被害者意識と屈折した自己愛など共通点が多い。

 白人ナショナリストというと、クー・クラックス・クラン(KKK)のような、人種差別に凝り固まって時に殺人までする暴力的なイメージが真っ先に思い浮かぶ。

 しかし、実際はポリティカル・コレクトネス(政治的妥当性)隆盛の今日、社会的弱者やマイノリティが優遇される一方、白人は権利を主張することも許されないという被害者意識を根底に持ち、高学歴で生活水準が高く、異文化に対して理解ある白人も多い。例えば、ジョージ・フロイド氏を窒息死させた白人警官は、白人至上主義者のように扱われるが、妻はアジア系難民であり、彼らの実際の姿は一様ではない。

 さらに、反発のあらわれ方も実に多種多様だ。黒人・ヒスパニックへのヘイトに限らず、反LGBTQ(性的少数者)、反イスラムもあれば反ユダヤも、さらには、反グローバリズムから歴史修正主義までその領域は実に広い。また、若いデジタル・ネイティブ世代になると、表面的にはソフトでも急進的な過激性を持つ「オルトライト」(もう一つの右翼)が浸透し、不気味さが増している。

 白人ナショナリストは、ジョーカーのように思い込みや願望に支配されていて、自己を客観視できず、考えの異なる人びとと、専門知を通した対話ができない。その点で、世界最高水準の疾病対策センター(CDC)を抱えながらも、専門知を軽視するトランプ大統領の政治姿勢と通底するものがある。

 世界の不安定要素となったアメリカの現在と将来を考える上でも、本書は前著『リバタリアニズム』と合わせて読まれることをお薦めする。

 ◇わたなべ・やすし=1967年生まれ。慶応大教授。著書に『アメリカン・デモクラシーの逆説』など。

読売新聞
2020年7月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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