みんなみんな逝ってしまった、けれど文学は死なない。 坪内祐三著 幻戯書房

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みんなみんな逝ってしまった、けれど文学は死なない。

『みんなみんな逝ってしまった、けれど文学は死なない。』

著者
坪内祐三 [著]
出版社
幻戯書房
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784864882002
発売日
2020/06/26
価格
3,080円(税込)

書籍情報:openBD

みんなみんな逝ってしまった、けれど文学は死なない。 坪内祐三著 幻戯書房

[レビュアー] 橋本倫史(ノンフィクションライター)

 坪内祐三さんが亡くなって半年が経(た)ち、評論集が刊行された。そこに収められた「『第三の新人』としての長谷川四郎」という一文を、何度も読み返してしまう。この短い文章に、坪内さんらしさが詰まっているように感じる。

 文は執筆依頼状に言及するところから始まる。そして坪内さんは、「戦後の日本人作家の全集をあまり持っていない」のに、長谷川四郎の全集は「過半数を架蔵している」と書く。それに対し、第三の新人の作家たちの「全集や作品集は一冊も所有していなくて、文庫本で愛読している」と。これらの話は、今や「自分語り」として読み流されてしまうだろうけれど、それは文学者による時代の証言であり、批評だ。

 文学の同時代的な手ざわり。編集者が紡ぎ出すくくり。文学と深く関わる追悼という表現スタイル。ちいさな酒場で交差する作家たち。短い中に、様々な文脈が描かれる。それを一言で表現すれば、「文壇」という言葉にたどり着く。

 坪内さんは2003年、福田和也さん、柳美里さん、リリー・フランキーさんらと文芸誌『エンタクシー』を創刊する。この雑誌を通じ、「『エンタクシー』という文壇を機能させようと考え」たのだと坪内さんは本書に記す。また、『酒日誌』や『酒中日記』といった連載は、「『オズの魔法使い』の魔法使いよろしく」、あたかも「文壇」が今なお存在しているかのごとく表現しようと試みたものだった。しかし、15年に『エンタクシー』が休刊し、「文壇というものが完全に消滅してしまった」。

 そして坪内さんもいなくなった。

 だが、肉体が滅んでも、書き残された言葉がある限り、その精神にはいつでも触れられる。

 坪内さんが描くちいさな片隅の別世界は魅力的だった。たとえ消滅したとしても、「魔法使い」が書き残した言葉を頼りに、わたしたちはそれを復興することができるはずだ。坪内さんが『後ろ向きで前へ進む』人だったように。

読売新聞
2020年7月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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