女帝 小池百合子 石井妙子著

レビュー

3
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女帝 小池百合子

『女帝 小池百合子』

著者
石井 妙子 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163912301
発売日
2020/05/29
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

女帝 小池百合子 石井妙子著

[レビュアー] 鈴木洋仁(社会学者・東洋大研究助手)

 先日再選を果たした小池百合子・東京都知事の評伝、などという説明は、もういらないだろう。

 発行部数は既に20万部を超える。一人の政治家について書かれた1冊としては異例の部数を誇っており、歴史的な本と言える。

 『日本の血脈』(文春文庫)でも著名人の家系を執念深く描いた著者は、今回も3年半にわたり地を這(は)う取材を進める。主役が長年みずから紡いできた〈物語〉を一つずつ剥ぐように確かめる筆力は、恐ろしい。

 4年前の選挙で〈厚化粧〉と罵(ののし)られた化粧の下の素顔、破天荒な父に振りまわされた末のエジプト行き、カイロ大学卒業の「真相」、帰国後に射止めたテレビキャスターの座、前都知事との恋、政界での遍歴、女性初の防衛大臣就任、と、ここまで読んでもまだ約半分にすぎない。

 どれも入念な調査と証言に裏打ちされているから、都知事に就いた後の言動についても、あらためて冷静に振りかえる助けになる。

 狙ったとおぼしき選挙直前の出版ゆえ、特に学歴についての暴露本めいた扱いも見られる。新聞やテレビではあまり触れられてこなかった。小池知事は未読だという。

 メディアの扱いにもかかわらず、本書がこれほどまでに売れているのは、私たちも〈物語〉を欲しているからではないか。「冷酷で慈しみのない女帝の真実」という別の〈物語〉を。

 政敵の〈人生が暗転〉するだけではない。彼女は、地元・阪神大震災被災者に〈非常に冷たい〉し、公害にも〈無関心〉だと著者は評する。他にも女帝を非難したくなるばかりなのに読むのは「面白い」からだ。「楽しく」て語りたくなるからだ。

 地位のみを求める、〈平成〉より「昭和」を感じさせる孤独な女性が、男社会でのしあがる。そんな顛末(てんまつ)を、私たちは消費していないか。

 女帝の危うさを指摘する結論とは裏腹に、私たちは、いつか彼女をも食い尽くすのだろう。本当に無慈悲なのは誰か。恐(こわ)くてたまらない。

 ◇いしい・たえこ=1969年生まれ。ノンフィクション作家。『原節子の真実』で新潮ドキュメント賞受賞。

読売新聞
2020年7月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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