『読書に学んだライフハック』
書籍情報:openBD
ライフハッカーで8年続けた「書評」の集大成と、サンガという出版社について
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
ライフハッカー [日本版](以下:ライフハッカー)で書評を書きはじめてから、この夏で8年になります。
時の経過の速さを実感せずにはいられませんが、そんなタイミングで発売された僕の新刊をきょうはご紹介させてください。
『読書に学んだライフハック――「仕事」「生活」「心」人生の質を高める25の習慣』(印南敦史 著、サンガ)がそれ。
これまでライフハッカーで書いてきた書評のなかから、ページビュー数の多かったものを厳選した書籍です。
ライフハッカーの書評は日曜祝日を除く毎日が締め切りで、2000本程度です。そこから厳選した書評を「BUSINESS」「LIFE」「MIND」の3カテゴリーに分けて収録したため、かなり密度の濃い内容になっているのではないかと思います。(「まえがき」より)
ライフハッカーでご紹介する本を選ぶ際、僕は「ビジネスパーソンの方々に興味を持っていただけそうな本」であるかどうかを基準にしてきたつもりです。
そして、それらの本に関する書評を、たとえば通勤途中にスマホで読んだりしていただいた結果、「ちょっと役立ったな」と感じていただけたらいいなとイメージし続けてきたのです。
「流行っているから」などということよりも、「どれだけビジネスパーソンの日常に取り入れてもらえるか」というような“お手軽感”を意識してきたということ。
それこそが、ライフハッカーという「情報系メディア」に求められるべきものではないかと考えてきたからです。
なお今回、それらをまとめてみて気づいたことがありました。
上記のような思いを軸に選書したうえで書いてきた結果、時代や流行に左右されることのない「普遍性」が浮き彫りになったように思えるのです。
したがって、5年前に書いた書評であっても、違和感なく読んでいただけるのではないかと感じています。
ライフハッカー書評の集大成
発行元のサンガは、仙台に本社のある出版社です。
おもに仏教系の書籍を出していますが、かといってゴリゴリに固い会社ではなく、他にもマインドフルネスや瞑想、自己啓発など、仏教に関わりのない人でも手に取れる書籍を積極的に出版されています(そもそも僕自身、特に仏教を信仰している人間ではありませんし)。
たとえば以前ご紹介したことのあるベストセラー『EQ 2.0――「心の知能指数」を高める66のテクニック』(トラヴィス・ブラッドベリー&ジーン・グリーブス 著、関 美和 訳)なども同社の刊行物。
つまりはそうした柔軟性がバックグラウンドとしてあるからこそ、今回の新刊の出版も実現できたのかもしれません。
ちなみに、同社と僕が知り合うきっかけになったのもライフハッカーでした。
『光の中のマインドフルネス――悲しみの存在しない場所へ』(山下良 著)という本をご紹介したときのことだと思いますが、そこから交流が生まれ、やがて「なにか本を出しましょう」という話になったのです。
それが「どうせなら、ライフハッカーの書評をまとめて本にするのがいいのではないか」というアイデアにつながっていき、およそ1年の歳月をかけてプロジェクトが進行していったわけです。
そのプロセスにおいては、ライフハッカーの松葉信彦編集長、編集部の岸田祐佳さん、そしてサンガの担当編集者である五十嵐幸司さんにご尽力いただきました。
岸田さんと五十嵐さんには、「日本一ネット」というサイトへの「書評執筆本数日本一」の申請作業までもお願いしたため、非常に感謝しております。
おかげさまで、日本一に認定していただけました。
ユニークな社長との交流
そしてもうひとつ、サンガという会社と僕を強くつないでくださった重要な人物が、社長の島影 透さんでした。
編集の五十嵐さんと初めて食事をすることになった際、なんと社長まで参加してくださったのです。当然ながら非常に恐縮したのですが、話した途端に意気投合したのも事実。
考え方などに共通する部分もあったため、短期間のうちに、まるで何年もおつきあいしているかのような、友だちのような仲になれたのでした。
そんなこともあり、気がつけば「また一緒に飲みに行きたいなぁ」と思うようにもなっていたので、ちょっと不思議な感じです。
そこで、本書の発行日である7月25日を過ぎたら、また飲みにお誘いしようと密かに考えていたりしました。
ところが、まったく予想もしていなかったことが起こりました。7月21日のお昼前に五十嵐さんから連絡があり、島影さんが急逝されたことを知らされたのです。
享年63。まだまだお若いですし、そうでなくとも非常にパワフルな方でした。
だからこそ、お亡くなりになるなど想像したこともありませんでしたし、ただただ困惑しました。
しかしそんなことがあったため、本書が僕にとって大きな意味を持つ書籍となったことは事実です。それは、受け入れるしかありません。
『海賊のジレンマ』の新しさ
本書の「MIND」の項で、『海賊のジレンマ ──ユースカルチャーがいかにして新しい資本主義をつくったか』(マット・メイソン 著, 玉川千絵子、鈴木沓子、鳴戸麻子、八田真行 訳、フィルムアート社)という書籍をご紹介しています。
記事がライフハッカーに掲載されたのは、2012年11月のこと。
つまりは発行から8年もの歳月が経過しているわけですが、ヒップホップサンプリングやリミックス、あるいは3Dプリンティングなどに代表される“海賊行為”の可能性に焦点を当てたアプローチはいまだ新鮮で、まったく色褪せることがありません。
私は本書で「パンク資本主義」という言葉を、現在支配的になっている新しい一連の市場の状況を表現するものとして使っている。それはディズニーの共同議長が最近言ったように、海賊行為が「ビジネスモデルのひとつ」とされる社会だ。
リミックスが生産と消費の仕組みを変えているような社会で、19世紀の著作権法を私たちにまだ適用するのは時代遅れだろう。
また、今の世の中では、広告がもう以前のような形では機能しなくなっている。そしてそこでは、オープンソース方式が、新しい公共財産、ニッチな市場、知識、そして資源といった富を生み出している。
そうしたものは、私たちが商業的、非商業的な事業を打ち立てるための無料の道具だ。だから、そこでは想像せいが最も価値のある資源となる。(イントロ ロリポップ・キャンディの衝撃)より)(181ページより)
今回、この本を取り上げたことに関し、ひとつ印象的な出来事があります。ゲラを読んでくださった島影さんが「読んでみたい」と興味を示し、購入してくださったというのです。
島影さんは“精神的パンクス”といってもいいキャラクターの持ち主だっただけに、こういう本に関心を持ってくださったことには納得できます。
でも、島影さんにとっての『海賊のジレンマ』がそうであったのと同じように、ライフハッカーの書評の集大成というべき本書を読んでいただければ、なんらかのヒントを見つけ出していただけるのではないかと思っています。
先に触れたように、流行の類に左右されることのない不変的な内容になっているからです。ですから、ぜひ手にとってみていただきたいと願っております。
今回はいつもと少し違う書評になってしまいましたが、どうしても書いておきたかったのです。ご了承ください。
そして最後に、島影 透さんのご冥福を心からお祈りします。
Photo: 印南敦史
Source: サンガ