『四畳半タイムマシンブルース』発売記念対談 森見登美彦(著者)×上田誠(原案)

対談・鼎談

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四畳半タイムマシンブルース

『四畳半タイムマシンブルース』

著者
森見 登美彦 [著]/上田 誠 [企画・原案]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041095638
発売日
2020/07/29
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

『四畳半タイムマシンブルース』発売記念対談 森見登美彦(著者)×上田誠(原案)

[文] カドブン

森見登美彦の1年半ぶりの新作は『四畳半神話大系』とヨーロッパ企画の舞台「サマータイムマシン・ブルース」を融合させた長編小説。原案者・上田誠との対談は、作品の生まれた経緯からお互いの創作観にまで広がってゆく。信頼を寄せ合うお二人ならではの本音トークをお楽しみください。

■一人でこっそりやるつもりだった

――そもそもこの企画はいつごろ、どちらが発案されたんでしょうか?

森見:それは僕ですね。思いついたのはずいぶん前なんですけど、本当は自分一人でこっそりやるつもりだったんですよ。それが、やむを得ず事前に上田さんにお伝えすることになって……。

上田:『ペンギン・ハイウェイ』の映画の顔合わせのときかな。

『ペンギン・ハイウェイ』(角川文庫)
『ペンギン・ハイウェイ』(角川文庫)

森見:そう、それが2016年なんですけど、その前に担当編集者にポロッと言ってしまった。それで編集者さんが「上田さんに話を通しましょうよ」と言うので、上田さんに伝えることになったんです。

上田:最初に聞いたときは半信半疑だったかもしれないですね。そのあと何度かお会いするたびに話題になって、「まだ生きてる話なんやな」って安心する感じが続いたというか。

森見:すぐにはできなかったですしね。

上田:すごい保険をかけた言い回しやった。「ほかにも色々と宿題があるので、すぐにはできないけど……」みたいな(笑)。

森見:それは実際にそうだったんですけど(苦笑)。

上田:だから嬉しいし光栄なことだけど、僕があんまり前のめりになってもあかんなって。

森見:本当はある程度書いてから上田さんに打診しようと思ってたんですよ。それで、上田さんがオッケーだったら、出版させてもらおうと。

上田:いや、「これはダメですね」とかならないですから絶対(笑)。

■16年ぶりの「四畳半」ワールド

森見:『四畳半神話大系』を書いてからもう16年ですからね。あれが出たのが2004年の年末で、クリスマスイブにサイン会をした記憶があります。

上田:アニメからも、もう10年ですか。

『四畳半神話大系』(角川文庫)
『四畳半神話大系』(角川文庫)

森見:僕はずっと腐れ大学生ものを書いてると思われがちなんですけど、そんなことはないんですよね。長編でいうと、『恋文の技術』(2009年)以来でブランクがある。だから、今回は「四畳半」の雰囲気を再現するのが大変だったんですよ。「四畳半」のキャラクターで「サマータイムマシン・ブルース」をやるという企画があるからできたところがあって、そうじゃないとやりにくい。

上田:僕は「サマータイムマシン・ワンスモア」(2018年初演)のとき、自分の作品を15年ぶりぐらいに引っ張り出してきたんです。当時の自分に勝てないところがあるというのもわかるし、リスペクトもあるわけです。だからなんというか、「自分の青春時代を汚してはいけない」みたいな気持ちが結構ありました。

森見:なるほど(笑)。

上田:そのとき僕は自信もなくて、お客さんに「昔の自分の作品を引っ張り出して続きを書いて……やらないほうがよかったね」って言われることを勝手に想像して腹が立って、劇中にそれに対するアンサーを書いてるんですよ。「こっちにはこっちの事情があるんだよ!」みたいな。

森見:あらかじめ反論しておく(笑)。

上田:それくらい過去の作品は触りにくい。過去の作品から自分が離れているという実感もないし、かといって何か足せるかな……みたいな。

森見:だからいますごく嫌なんですよ。本が出るまでのこの時間が! 読者のみなさんから「『四畳半』が書けてない!」みたいに思われたら……。

上田:すっごいわかります。

森見:おっさんが大学生ごっこしてるみたいな。それを読者に突っ込まれたらと思うと、非常に嫌ですね。

上田:「サマータイム」を再演して「ワンスモア」をやったときの自分とめっちゃ似てる(笑)。

森見:上田さんがそれをされたんで、僕も頑張らなあかんなとは思いました。

■本来、融合すべき作品だった

――もとになった2作品より『四畳半タイムマシンブルース』を先に読む方もいらっしゃるでしょうね。

森見:そういう意味では、「四畳半」にも「サマータイム」にも行ける作品にはなったかな。でも、この3作品の関係はなかなか説明しづらい。

上田:それで言うと、森見さんと僕ってだいたい似たような時期に京都で大学生活を送ったからか、「大学生」というものの捉え方が似てるかもしれない。僕は森見さんの作品を読んだとき、他人事と思えなかったんですね。

森見:実際には、作品に書いたような大学生活は送っていないという……。

上田:僕なんかそもそも大学にちゃんと行ってないですからね。「サマータイム」には、「学校に行って部室でダラダラする」という大学生活への憧れがこもっていて、要は自分が過ごしたかった大学時代を書いたんですよ。

森見:僕もそうですよ。元になったできごとがあったりはしますけど、「こうやったら面白かっただろうなあ」という夢を書いているところがあります。

上田:夢や憧れを書きあっている(笑)。

森見:お互い同じ時代に近い場所にいて、似たような妄想をしていて、それぞれ「サマータイム」と「四畳半」を書いたわけですよね。それが十数年を経て融合するという、なかなか不思議な……。

上田:運命を感じますね。

森見:本来融合すべきものというか、同じところから生まれた作品で、原材料は同じだったんでしょうね。

■舞台版のエネルギーにキャラクターで対抗

――「サマータイム」なら小説にできる、と思われたのはなぜなんでしょう?

森見:ヨーロッパ企画のお芝居のなかでは比較的置き換えやすそう、というのがまず大きい。大学生のお話だし、なんとか主人公を立てて小説に置き換えられるんじゃないかと。ヨーロッパ企画の作品では珍しいタイプなんじゃないですか?

上田:僕の劇は群像劇で、主人公がいないときもありますからね。

森見:いざ書き始めたら、小説に置き換えるのが不可能なシーンがいっぱいあって難しいんですよ。やっぱりそれぞれの器ごとに、舞台だからこそできる、小説だからできる、アニメだからできることがあるわけですよね。

上田:それぞれ得意なことが違うというか。

森見:ただ、普段はそんなことを考えながら小説を読んだり舞台を見たりはしないわけです。だから、いざ別の形に移植するとなったら「うわっ!」て。上田さんはさんざん経験されていると思いますけど、僕は初めてでしたからね。

上田:『新釈 走れメロス 他四篇』があるじゃないですか。

『新釈 走れメロス 他四篇』(角川文庫)
『新釈 走れメロス 他四篇』(角川文庫)

森見:あれは元が小説なので、あまり読みどころのポイントがずれないんですよね。その点、やっぱり舞台は違いますね。舞台だからこそ面白い、役者さんが言うから成立する、そういう部分がいっぱいある。しかも、自分が感じた「面白さ」ってそういう部分だったりするから、「ここも再現できない!」という挫折感も大きかったですね。舞台を見ているときに感じた熱量みたいなものは、そう簡単に小説では再現できない。だから、そこは頑張って別のもので補わないといけない。

上田:そこまで舞台版の熱を移そうと苦心惨憺してくださったんですね。

森見:「四畳半」のキャラクターを使おうと思ったのもそれが理由なんですよ。舞台版のエネルギーがあるから、新しく考えたキャラでは対抗できないわけです。そうなると「四畳半」のキャラが強くていいんじゃないかと。できるだけ勝算のあるやり方でやりたかった。

――上田さんから見て、舞台の小説化はどのあたりが難しいと思われますか?

上田:一人称と客観の問題はけっこう大きいかなあ。舞台には物理的な広がりがあるので、空間そのものを書くとか、舞台が大きくなったら世界の流れや動きを書くとかそういうことを考えないといけない。どんどん俯瞰的になっていく。

森見:だから、最近の作品は難しいんですよ。

上田:物理的な空間が大きくなっていますからね。そういう意味では、「サマータイム」は劇団を旗揚げして間もない頃の企画なので、空間も比較的限られている。「サマータイム」は、「客観」のタイムスリップものができるのは舞台しかないと思って書いたんですよ。

森見:上田さんと僕は作風が似ているところもあるけど、視点が違うじゃないですか。上田さんは俯瞰で、僕は頑なに一人称。視点の置き方が全然違う。

■どんどん山が高くなるのはしんどい

森見:僕の場合は一人称でないと読みがいのある小説にならないんですよ。

上田:劇作家でも一人称タイプの人はいて、野田秀樹さんとか松尾スズキさんがそうなんですが、そういう方はご自身も出演されるんですね。それこそ私小説的な劇を書かれる方もいます。でも僕は役者では絶対出ないし、自分とは別のところに世界を作るのが好きなんです。そんな僕が書いた「サマータイム」をグイッと一人称に……。

森見:「サマータイム」だからギリギリ置き換えられましたけど、ほかの作品だとちょっと難しいだろうなあ。あと、一人称にしたことで「四畳半」にすごく寄ってしまった。「サマータイム」というよりも「四畳半」の番外編という印象が強くなった。

――公式には「続編(?)」となっていますが。

森見:宣伝的には続編ですが、自分的には番外編というか自分の作品を使った二次創作かな。「続編を書こう」と思って書いたのとはちょっと違いますからね。

上田:書きにくいキャラクターはいましたか?

森見:みんな等しく書きにくいところもあり、という感じかな。でも、もう一度「四畳半」のキャラクターを書くことになるとは思ってなかったんで、そこは純粋に嬉しかったです。「サマータイム」をやるんだ、という言い訳があったおかげで。

上田:なんか言い訳がないとやっぱりね(笑)。

森見:だいたい「続編を書きます」と言ってしまうとハードルがものすごく上がる。

上田:僕、思うんですけど、『ドラゴンボール』ってどんどん敵が強くなっていくじゃないですか。一方で『ジョジョの奇妙な冒険』は平行移動なんですよね。パターンの違う敵と戦っていく。これ、すごい実感があって、「もっと強い敵と戦います」ってやると……。

森見:追い詰められていく一方になる。

上田:続編になるとどんどん山が高くなるわけで、だから僕はなるべく横にずらす。でも『有頂天家族』ははっきりと続編を書いたでしょう?

森見:だから追い詰められています。第三部どうすんねん、と(笑)。

上田:けど、やるんでしょう?

森見:もう逃げられないですからね。こういう言い方をすると上田さんに申し訳ないんですけど、いまはリハビリ期間中なんです。2018年に『熱帯』があまりにしんどかったんで、自分をほぐして原点に戻ろうと。その原点回帰の一本なわけです。いま行き詰まっている「シャーロック・ホームズの凱旋」もそう。

上田:二次創作的なところが共通しますね。

森見:そう。で、その先に控えているのが『有頂天家族』です。

上田:ずっと抱えておられる「宿題」。

森見:『有頂天家族』が最後にして最大の難関なわけです。ものすごい山。それさえ終わってしまえば、どうしても書かないといけないものはなくなる。引退してもいい(笑)。

上田:引退って(笑)。

森見:でも、上田さんには本当に感謝しています。今回はほぼデビュー当時の時間軸まで戻って書くことができましたから。

上田:森見さんは毎回正攻法だからすごいですよね。過去作を見てると、毎回ど直球で新作を投げてきている。

森見:本当はもうちょっと気を抜きたい。正攻法にこだわりすぎるのはよくないですね。そこは、今後の課題とさせてください。

■おわりに

――アニメからお二人の作品を追うようになった方も多いと思います。

上田:キャラクターのファンもいるわけですよね?

森見:そうでしょうね。

上田:「樋口師匠はこんな活躍をします」とか「明石さんがこんなふうに可愛い」みたいな話を全然しなかったですけど、いいんですかね。

森見:『有頂天家族』がしんどいみたいな話はいらんかったな……。

上田:キャラクターでいうと、明石さんが撮った映画の内容が細かく描写されていて、それがすごく面白かったですね。

森見:あれは「四畳半」で、主人公と小津が撮った映画を明石さんが面白がっているようだったので、それを膨らませた感じですね。

上田:明石さんはこんな映画を撮るんやなあと。明石さんに限らず、キャラクターそれぞれの新しい一面も見られました。

森見:映画のところとか、主人公と小津の参加している新しいサークルとか、そういうところは無責任に書けて楽しかったですね。あとはやっぱり、中村佑介さんのカバーイラスト。

上田:この作品で中村さん以外はもう考えられない。

森見:夏らしい感じで、明石さんもとても可愛い。いつも思うんですけど、中村さんのイラストがつくとオーラが変わりますね。このイラストのおかげできっと大丈夫……。

上田:いや、中身もいいですから。読者の皆さんの期待を上回る、あっと驚く着地を見せる作品になっていると思います!

『四畳半タイムマシンブルース』発売記念対談 森見登美彦(著者)×上田 誠(...
『四畳半タイムマシンブルース』発売記念対談 森見登美彦(著者)×上田 誠(…

構成:平林緑萌

KADOKAWA カドブン
2020年7月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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