『教養としての日本語』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
「慣用句」はビジネスパーソンの武器。役に立つ5つの四字熟語・古事成語
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
ことばとは、その人の内面を如実に映し出す“鏡”。『知的な話し方が身につく 教養としての日本語』(齋藤 孝 著、リベラル社)の著者は、そう主張しています。
ことばのストックが豊富で、かつ「適切な場面で適切なことばを使える力」が高いほど、思考はより深く、表現はより幅広く、コミュニケーションはより円滑に、相互理解はより正確になるからです。
特に、日本語を最も日本語たらしめているのが「慣用句」。
慣用句をどれだけ知っているか、その意味を理解し、日常のコミュニケーションに利用できているかが重要だということです。
一つの意味を様々な表現で言い表す。慣用句という日本語表現の軸となる言い回しを身につけ、それを使いこなす。
そうすることで私たちは、自分の中に、それだけ多くの視点や広い視野、豊かな世界観を持つことができます。
広くて深い“日本語の海”を自由自在に泳ぎ回り、臨機応変に的確なことばを救い上げることができる。これこそが「語彙力」であり、「頭のよさ」であり、私たちが「身につけるべき教養」なのです。(「はじめに」より)
そこで著者は、“学校では教えてくれない”教養としての日本語を身につけてほしいという思いから本書を書いたのだそうです。
「漢語+大和言葉」で構成される慣用句のなかから「社会人として知っておきたい」表現を300語集め、100語ずつ3つのレベルに分類したもの。
さらに、慣用句とともに日本語の軸をなす「四字熟語」「古事成語」100語を加え、「漢語」部分を空欄にした「穴埋めテキスト」形式でまとめられています。
きょうは4「一目置かれる人の四字熟語 古事成語」のなかから、5つを抜き出してみたいと思います。
目先の違いにとらわれ、同じであると気づかないこと
朝三(ちょうさん)□□
中国の宋の時代、猿回しが飼っている猿に与えるトチの実を節約しようと、「朝に三つ、暮れに四つやる」と言いました。
すると猿が怒ったため、「朝に四つ、暮れに三つやる」と言うと猿が喜んだ。そんな寓話を由来とすることば。
つまり、目先の違いにとらわれることの愚かさを表しているわけです。
答 暮四(ぼし)
使い方:安売りの店に行って、余分なものまで買ってしまった。これでは朝三暮四だ。
(185ページより)
小さな努力が身を結び、大きな成功を手に入れること
雨垂れ□を穿(うが)つ
雨のわずか一滴のしずくも、同じ場所に落ち続ければいつか石に穴を開けるという意味。
「小さな努力が身を結び、大きな成功を手に入れること」を表しているのです。
類義語には、「鉄杵(てっしょ)を磨く」ということばも。
こちらは、「鉄でできた杵も磨き続ければ針にすることができる」というたとえです。
答 石
使い方:彼は働きながら勉強を続け、ついに国家資格に合格した。まさに雨垂れ石を穿つだ。
(193ページより)
上層部の考えを下の者に伝えること
上意□□
江戸時代の歴史家、頼山陽(らいさんよう)の『日本政記』にあることばで、「組織の上層部の考えや命令を下の者に伝えること」。「じょういげたつ」と読み間違えやすいので注意。
なお、逆に「下の立場の人たちの気持ちや意見が上層部まで届くこと」を「下意上達(かいじょうたつ)」と言います。
答 下達(かたつ)
使い方:あの会社は上意下達が徹底されている。
(193ページより)
切羽詰まった状況で覚悟の上で事にあたること。
□□の陣
韓信(かんしん)という武将が軍の指揮を任され、あえて川を背にして陣立てすることによって、味方に覚悟を決めさせたという戦法に由来するもの。
この故事に由来し、「絶体絶命の状況のなかで全力を尽くしてことにあたること」を「はいすいのじん」というようになったわけです。
答 背水(はいすい)
使い方:失敗の許されないこの商談に、背水の陣で臨む。
(198ページより)
仲間と行動や運命を共にすること
一蓮□□
仏教のことばに由来するもの。「よい行いをした人は、死後に極楽浄土で仏と同じ蓮の花の上に生まれ変わる」とされていることから転じて、「結果はどうであろうと、仲間同士、運命を共にする際」に使われるようになったのです。
仲間との結びつきを深めたいとき、とても大きな力を持つことば。
答 托生(たくしょう)
使い方:ピンチの場面だが、我々は一蓮托生だ。
(185ページより)
それぞれに、ことばの成り立ちや意味合い、含み持つニュアンスなどの解説、日常で使われる際の具体的な例文なども添えられています。
そのため、自分がどれだけ慣用句を、そして日本語を身につけているのかを見つめなおすには最適な内容。
気軽に活用してみれば、“教養”としての日本語を的確に身につけることができるでしょう。
Photo: 印南敦史
Source: リベラル社