『ニッポン脱力神さま図鑑』
書籍情報:openBD
異形ぞろいの「神さま」 パラパラと眺めるだけでも楽しい
[レビュアー] 篠原知存(ライター)
独特のユルい風貌を持つ「田の神(かん)さあ」、ユーモラスな石造りの「国東仁王(くにさきにおう)さま」、妙にアンバランスな「人形道祖神」……。各地の道端にたたずむ「ヘンな」神仏を集めたフォトブック。地元ではあまり違和感がないのかもしれないけれど、出くわしたら「なんだこりゃ?」と思ってしまいそうな造形物がずらり。
巡り歩いて撮った300体以上の写真をパラパラと眺めるだけでも楽しいのだが、最大の魅力は軽妙な解説文。本誌の連載「ディープ『みんぱく』探検隊」でもおなじみの紀行エッセイストが、独特の視点と語り口で「脱力神さま」の魅力に迫る。
ひとつひとつ勝手に命名して寸評を付記。神仏の姿も面白いし、著者がどう見たか、どう書くのかがさらに面白い。不思議さ、微笑ましさ、ズレた感覚を的確に捉えた言葉に何度も笑わされる。〈見事な躍動感だが、躍動感の方向性がちょっと違う気がする ダンシング仁王〉とか、〈顔以外はテキトー。むにょーん スライム系鬼コ〉とか。言われてみると、そうとしか見えなくなる。
著者は、なにか気になるものに出会ったとき、歴史や背景よりも〈その色や造形がなぜ自分の心に爪痕を残したのか〉を考えてしまう、と明かしている。〈いわゆる民俗学方面に関心が向かわず、ユーモラスさやかわいさの理由を知りたくなってしまうのである〉。
異形ぞろいの「脱力神さま」についての考察でも、地域文化や社会情勢はしっかり押さえつつ、なぜこれらが我が琴線に触れるのか、と自問自答を重ねていく。ヘタウマなものが大好物なのに、作為が透けて見えると〈蹴飛ばしたくなる〉。「ゆるキャラ」とかはちっともかわいいと感じない。そもそも「かわいい」とは何か、「ユルさ」とは何なのか。
脱力文体で綴られた「脱力論」を読んでいるうちに、自然に肩の力が抜けてくる。こんなのもありなんだなぁと思うだけで、ほっこり。