朝の専門家が教える、仕事のパフォーマンスを上げる「夜時間」の活用術
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『結果を出し続ける人が夜やること』(後藤勇人 著、あさ出版)の著者は、「朝の成功習慣トレーナー」。
いわば“朝の専門家”であり、2016年の著作『結果を出し続けている人が朝やること』(あさ出版)も話題となりました。
なのに、本書は「夜の活用術」を記したものとなっています。それはなぜか?
理由は2つあるようで、まず1つ目は“夜時間”の過ごし方について悩んでいる人が多いことに気づいたため。
「夜の時間をどう活用したらいいのか」など、夜の時間に関する悩みを持ちかけられる機会が、意外に多かったというのです。
そしてもう1つは、時代の大きな変化。
ライフバランスを大切に考えるという風潮、働き方改革などによって、日本人の夜が2時間から3時間長くなっています。
(中略) また、新型コロナウイルスの世界的大流行により、感染防止のため在宅ワークが増え、帰宅時間がより一層早まり、夜の過ごし方、時間の使い方が大きく変わりました。
この新しく生まれた夜時間をどう過ごすか。 それが、これからの人生を形作ることは明らかです。(「はじめに」より)
著者がこれまで会ってきた成功者たちの多くも、「夜だからできること」「あえて夜にすること」などをそれぞれ持ち、夜の時間を上手に活用しているそう。
そこで、より効果的な夜の活用法を伝えたいという思いから、本書を執筆することにしたというのです。
具体的には、成功者と呼ばれる一流の人たちの夜の過ごし方、著者がセミナーで伝えている「夜時間の使い方」のなかから多くの人が実践し、結果を出していることを紹介しているのだそうです。
きょうは“仕事”に焦点を絞った第2章「仕事で効率よく結果を出す夜のワーク」に注目してみたいと思います。
次の日を先取りする
ミスやトラブルが起きたときには、「こんなふうになるとは思っていなかった」「もっとこうしておけばよかった」などと考えてしまいがち。
しかし、一度起きてしまったことは、どれだけ悔やんだとしても取り返しがつきません。
ミスやトラブルの要因の大半は、予測できないこと。
つまり、「想定外の状況になることをいかに少なくするか」が重要な意味を持つわけです。
結果を出し続けている人は、翌日のスケジュールを確認し、頭の中でシミュレーションしています。 それぞれの予定についてではなく、一日の流れを予習しておくのです。
どんな服を着て、何時に家を出て、外出があるならば、何時にオフィスを出て、どの乗り物で移動して、どこでどんな商談をして、帰社後は友人と会ってーー、などと事細かに行います。電車やバスなどの時刻も確認しておきましょう。
先に潜在意識レベルで成功を体験し、 想定外が起きる状況をなくしてしまうのです。 (57ページより)
こうすれば、実際の場面でもうまくいくことが多いのだそうです。事実、心理学の世界でもイメージトレーニングの重要性は語られているのだとか。
人は、成功をイメージしただけでそれを実際の成功だと認識し、成功体験として脳に刻み、実現できるようになるというのです。
スポーツ選手が成功するイメトレを重視するのもそのため。成功イメージの先取りは、結果を出すための大事な戦略だということです。
たとえば翌日に大事なプレゼンや商談があるのなら、資料の内容チェックや詳細なシミュレーション、質疑応答への対応準備などとともに、うまくいったというシーンまでイメージするべき。
しかも、どんなにしっかり頭に入っていたとしても、書類の隅々まで目を通すことが大切。
そうすれば、「もしかしたら、こんなことを聞かれるかもしれない」「こんな対応が来るかもしれない」というようなことが見えてくるからです。
すると当然、多少の想定外があったとしても、余裕を持って対処できるようになるはず。
「次の日の先取り」は、心に余裕をもたらし、仕事相手にも安心感を提供することになるわけです。(56ページより)
四字熟語で心を整える
いうまでもなく四字熟語は、四つの漢字を組み合わせ、ひとつの意味を表すことば。仏教の教え、日本や中国の偉人、高名な博識者の体験や学びをもとにつくられています。
そのため、人として学ぶべきこと、あり方などが詰まっているのです。
人生のどこかで壁にぶつかったり、道に迷ったりしたときの心のよりどころ、心の指針となるものも少なくないということ。
著者にも、好きな四字熟語が3つあるそうです。「安心立命(あんしんりつめい)」「主一無適(しゅいつむてき)」「恬退緩静(てんたいかんせい)」がそれ。
安心立命は、「安らかにして動ぜず。力を尽くして天命を待つ」、つまり、自分の目の前に起こることは、すべて自分が引き寄せた必然であり、それに対して過度に一喜一憂せず、目標実現のために今できる最善を尽くし、後は天命を待つ、この行動を繰り返すという意味です。
主一無適は、「一つのことに選択集中すること」、つまり、何か物事をやるときに、行動や思考が四方八方に散ってしまい、一つのことにフォーカスできず、うまくいかない時に立ち返る言葉です。
恬退緩静は、「穏やかで争わずゆったりして物静かな様」、つまり、人と対立して争いごとを起こしても、そこから生まれるものは何もない、ムダな争いをせず、穏やかな自分を保つことの大切さを伝える言葉です。(75〜76ページより)
この3つは、著者の座右の銘、心の指針となっているのだそうです。
部屋にはこの3つを書いた紙を壁に貼り、毎晩、1分間眺めては、自分の考え方や行動がぶれていないか確認し、心を整えているというのです。
夜の時間には、そうした活用法もあるわけです。
もちろん、座右の銘となるようなことばとは簡単には出会えないかもしれません。でも、いまの自分が「こうありたい」と思えるような四字熟語を見つけ、それを夜に見返すだけでもOK。
「明日、こうありたい」と思うことばを選んで見つめるだけでも、心を整え、スイッチを入れることができるから。
つまり、心を整え、前に向く時間を意識的に持つことで、日常でブレた自分を本来の自分に戻すことができるということです。(74ページより)
このように、決して難しいことが書かれているわけではなく、1〜5分ほどでできてしまうワークも豊富。
すべてを一気に実践する必要はなく、できることから順に「夜の過ごし方」として取り入れてみればいいのです。
まずはこの週末を利用して、新たな夜時間をスタートさせてみてはいかがでしょうか?
Photo: 印南敦史
Source: あさ出版