『ブラックウェルに憧れて』
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不正入試と、女性医師のいま
[レビュアー] 南杏子(作家)
「女医さんって、意外と大変なんだね」
本作を読んだ男性医師が、開口一番にそう言ってくれた。女性から見た社会の困難さは男性に理解されにくい。それが少しでも伝わるのなら、読んでもらう意味があると思った。
本作に登場する四十歳になったばかりの四人の女性医師は、時に過酷な医療現場に身を投じる傍(かたわ)ら、別の何かとも日々戦っている。それは「なんだ、女医かよ」という正直すぎる患者の反応だったり、「結婚は? 子供は?」といった質問を無邪気に投げつけてくる人たちだったり。
十九世紀にエリザベス・ブラックウェルというイギリス人女性が世界で初めて医師の資格を得た。それまで女性は、医学を学ぶ機会すら与えられず、ブラックウェルも当初はすべての医学校から入学を断られた。その中である学校は、全在校生(当然ながら男のみ)が認めれば入学を許可すると提案してきた。要は断るための方便だ。ところが学生はおもしろがり、冗談で全員が賛成票を投じた。彼女は入学を認められたものの、いざ現実になると戸惑った男子学生が意地悪をしてくる。さらに「レディーにふさわしくない」と外科の授業を締め出され、研修先からは受け入れを拒否された。
――大昔の話である。だが、現代の私たちは、これを笑えるだろうか?
一昨年に発覚した医学部の不正入試では、多くの大学で女子の点数を操作していた事実が露見した。入試の不正だったから明白な差別の証拠として認識された。けれど、隠れた差別意識は今も医療現場や社会の水面下にぶ厚く浮遊する。
本作が、女性であり医師であるがゆえの苦しみをあぶり出せていたら嬉しい。「意外と大変」という感想から一歩踏み出し、「どうにかしないと」と感じる良識ある男性たちと、理不尽な既成事実に簡単には迎合しない女性たちが増えるのを願いつつ。