グローバルヒストリーから考える新しい大学歴史教育 秋田茂、桃木至朗編著

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グローバルヒストリーから考える新しい大学歴史教育

『グローバルヒストリーから考える新しい大学歴史教育』

著者
秋田茂 [著、編集]/桃木至朗 [著、編集]
出版社
大阪大学出版会
ジャンル
歴史・地理/歴史総記
ISBN
9784872596403
発売日
2020/04/17
価格
2,530円(税込)

書籍情報:openBD

グローバルヒストリーから考える新しい大学歴史教育 秋田茂、桃木至朗編著

[レビュアー] 佐藤信(古代史学者・東京大名誉教授)

 高校の歴史教育で近代の日本史・世界史の統合が図られることに応じ、一国史の枠を越えたグローバルヒストリーの成果を教育に活(い)かす試み。大阪大学大学院の「歴史学のフロンティア講義」で、日本史・世界史を融合して大学歴史教育の見取図を描こうとした内容である。前近代をふくむ海域アジア史などの成果をもとに、グローバルヒストリーの新鮮な事例研究を提示している。

 日本史・東洋史・西洋史にまたがる視野からの興味深い論考をいくつか紹介しよう。

 ベトナムや南中国原産の漢方薬原料である肉桂(にっけい)の江戸時代日本への流通をめぐり、国際流通の実態を解き、輸入が難しくなって国産化をめざした日本市場が、アジアの交易環境に連動していたことを明らかにした論考。国際的に東南・東アジアのほか西洋諸国も深く関わっていた。

 次に、19~20世紀の大英帝国の世界展開において、インド系移民・商人のネットワークが大きな役割を果たし、アフリカ東南岸をふくむ「インド太平洋世界」が形成されたダイナミズムを解く論考。日英同盟や帝国臣民としてのインド植民地人にふれ、大英帝国史・アジア史・日本史をつないで立体的に見通す。

 また、1940年にナチスに降(くだ)ったフランス・ヴィシー政権期の仏領インドシナで、日本帝国と組んだ日仏共同統治が展開した微妙な実情を、仏・日・東南アジアを結び明らかにした論考。

 本書が示すように、今の日本・東洋・西洋史研究は、すでにグローカルに世界の各地域史を見直し、その交流・比較史で魅力的な達成をもたらしている。ただし、大学生向けには高度な内容と思われるし、前近代を扱わない高校の歴史基礎教育とは大きな距離も感じる。個別研究のオムニバスではなく、グローバル史の歴史叙述として体系化をめざすには、なお日本・東洋・西洋史の着実な専門研究の間での交流と深化が今後の課題となろう。

 ◇あきた・しげる=大阪大教授。専門はイギリス帝国史◇ももき・しろう=大阪大教授。専門は東洋史。

読売新聞
2020年7月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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