新敬語「マジヤバイっす」 社会言語学の視点から  中村桃子著 

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新敬語「マジヤバイっす」

『新敬語「マジヤバイっす」』

著者
中村 桃子 [著]
出版社
白澤社
ジャンル
語学/日本語
ISBN
9784768479797
発売日
2020/03/12
価格
2,420円(税込)

書籍情報:openBD

新敬語「マジヤバイっす」 社会言語学の視点から  中村桃子著 

[レビュアー] 飯間浩明(国語辞典編纂者)

 「そうっすね。おもしろいっす」のように、ことばの最後に「っす」をつける言い方が、ここ何十年かで、特に若い世代に広まりました。著者はこの形を「ス体」と呼び、本書まるまる一冊を費やして論じています。

 国語辞典的に言えば、「っす」は俗に「です」を縮めた言い方にすぎません。ところが、著者と一緒に実際の会話を観察してみると、この「ス体」は、日本語の敬語の欠点を補うものだということが分かります。

 普通、目上に対しては「ですます体」(丁寧体)を使います。ただ、この言い方は、敬意は表せるけど、相手を遠ざけてしまう欠点があります。先輩に「そうですね」はよそよそしい。一方、「そうっすね」と「ス体」を使うと、敬意と親しみの両方が表現できるのです。

 「ス体」は便利なので、一般の敬語に取り入れてもよさそうです。ところが、ネット掲示板に〈「っす」は丁寧語っすよね〉と書き込んだある人は、多くの閲覧者から猛烈な批判を受けたそうです。内輪の世界では丁寧体として機能する「ス体」も、外の世界(掲示板など)では、その機能が認められなかったのです。

 かといって、「ス体」は内輪の世界の敬語にとどまってはいません。著者はテレビCMを観察し、「ス体」に敬意表現以外の意味づけがなされていることを指摘します。〈まじかんべんっすよ〉と軽いノリで言う男性、〈今日も充実っす〉と勢いよく楽しそうに言う女性など、「ス体」はこれまでとは違う新しい男性像、女性像の表現に用いられています。

 思えば、「です」という語尾も、江戸時代は遊里で使われた俗語でした。それが、近代には丁寧表現を担うようになり、知性的で洗練された印象と結びつきました。「っす」も、今はあまり重要視されていませんが、いずれ将来の日本語を担うことになるかもしれない。著者はそう示唆しているような気がします。

 ◇なかむら・ももこ=1955年、東京都生まれ。関東学院大教授。専門は言語学。著書に『女ことばと日本語』など。

読売新聞
2020年7月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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