民主主義の非西洋起源について デヴィッド・グレーバー著

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民主主義の非西洋起源について

『民主主義の非西洋起源について』

著者
デヴィッド・グレーバー [著]/片岡 大右 [訳]
出版社
以文社
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784753103577
発売日
2020/04/24
価格
2,640円(税込)

書籍情報:openBD

民主主義の非西洋起源について デヴィッド・グレーバー著

[レビュアー] 瀧澤弘和(経済学者・中央大教授)

 世界的ベストセラーとなった『負債論』で伝統的貨幣論を揺るがした著者が、本書では民主主義の概念をラディカルに揺さぶる。

 民主主義が古代アテネを起源とし、西洋文明がその理念を特権的に継承してきたという「物語」はいまだに根強い。著者はこの見方を幾重にも否定する。最初に西洋なるものの存在の否定、次にこの物語の歴史的事実による否定、そして、この物語がもたらした民主主義概念の否定である。

 歴史的には、西洋諸国は他の文明諸国と同様、民主主義に対して一貫して敵対的だった。西洋が右に述べた物語を「発明」して独自の伝統とするに至ったのは、一九世紀初頭の選挙権拡大のなかで、支配エリートが人民票を無視できなくなったからだった。この時期に古代ローマの共和制に代わって、アテネの民主主義が理想化される。しかもその過程で出現したものは、民主主義の要素を国家の強制力と結合した「共和制」でしかなかった。つまり、民主主義概念そのものがこのプロセスで歪(ゆが)められているのだ。

 著者によれば、民主主義的実践は、平等志向の意思決定プロセスとでもいうべきもので、強制力から独立した多様な人々の「あいだ」の空間にほとんどどこでも出現してきた。この立論の背景には著者のアナーキストとしての視点がある。

 今日では西洋そのものが歴史的に相対化されがちだ。しかし、自由、人権、民主主義等の普遍的概念を西洋由来のものだと言い切ってしまうと、これらの概念を西洋の専売特許にしてしまい、場合によってはこれらの概念は他の諸文明では受け入れ不可能だという議論さえ生じさせかねない。著者はこの陥穽(かんせい)に陥らないポジションをとる。本書で提起される視点は、西洋に民主主義を一人占めさせることなく、その普遍性を概念化していくための新たな地平への想像力を喚起してくれるものだ。片岡大右訳。

 ◇David Graeber=1961年米国生まれ。文化人類学者。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授。

読売新聞
2020年7月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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