『オンライン会議の教科書』
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その発言の真意は?ニュアンスが伝わりづらい…オンライン会議のメリット・デメリット
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
新型コロナウイルスの影響で働き方が大きく変わり、新たな手段が求められるようになっています。たとえば、そのいい例が会議。
直接顔を合わせることなくパソコンの画面上で話し合う「オンライン会議」が、新たなビジネスの手段として急速に浸透しているわけです。
とはいえ、やってはみたもののうまくいかず、「やりにくさ」「もどかしさ」「戸惑い」を感じている方も少なくないのではないでしょうか?
そこでご紹介したいのが、『オンライン会議の教科書』(堀 公俊 著、朝日新聞出版)です。
著者は、組織の力を最大限に引き出すファシリテーションのスキルを、20年以上にわたり研究・実践してきたという人物。
オンライン会議についても、電話会議やメール会議を手始めとして、ここ10年はSkype会議へとツールを変えつつ、実践ノウハウの探究に関わってきたのだそうです。
「日本ファシリテーション協会フェロー」という肩書きもお持ちで、10年にわたりオンライン会議に関する調査・研究を重ねてきたのだとか。
つまり、オンライン会議を知り尽くしたプロフェッショナルだということです。
それらの活動の中で培ったノウハウを一挙に公開するのが本書です。いわば、うまくいかなくて悩んでいる人にお届けする、「オンライン会議の教科書」です。
これから始めようというビギナーから、日々悪戦苦闘しているベテランまで、どなたでも役に立つ内容が満載です。ビジネスパーソンを対象にしていますが、オンライン会議に興味がある人なら誰でも楽しめるようになっています。(「はじめに」より)
きょうはオンライン会議のついての基礎がまとめられた第1章「オンライン会議は、なぜうまくいかないのか?」のなかから、最も基本的なポイントである「オンライン会議のメリットとデメリット」に焦点を当ててみたいと思います。
いつでもどこでも誰とでも話し合える
いうまでもなく、オンライン会議の最大の長所は「いつでも」「どこでも」「誰とでも」話し合える点。
メンバーが物理的に集まらなくても、時間さえ合えばいつでも会議を開くことができるのです。
当然ながら、限られた会議室を奪い合ったり、狭い部屋にすし詰めになったりする必要もなし。
自宅からでも喫茶店からでも、思い思いの場所から会議に参加することが可能だということです。
そのため、普段なかなか会えない人たちとも話し合えるのが便利なところ。
リアル会議では困難だった「全世界の拠点が一堂に集結する」というようなことさえ、簡単にできてしまうのです。
結果として、今まで敷居が高かった会議が気楽にカジュアルにできるようになります。何か問題があったらパッと集まってサッと議論する。そんなスタイルが根づくことで意思決定のスピードが上がります。
しかも、人数の制約がなく、幅広い人が参加できます。組織全体の情報共有やコミュニケーションの促進に役立ちます。ひいては、意思決定の質と納得感が高まります。(24ページより)
しかも、もちろんコストもかかりません。豪華な会議室も効果なテレビ会議システムもいらず、パソコンとネットさえあればよく、使うツールも無料もしくは安価で入手可能。
交通費や出張費の節約にもなり、会議で使う資料の共有も簡単にでき、印刷代やコピー代も不要です。
そして、さらに見逃せないのが人件費。一般的には、役職が高くなるほど会議の比率が増え、「会議から会議へ」と飛び回ることになるものです。
しかしオンライン会議で意思決定がスピード化できれば、会社全体で削減できる人件費は相当な額になるはずだということです。
また、記録が残しやすいのも大きな利点。
議論しながらのドキュメントづくりがしやすく、チャットのログ(記録)はもちろん、会議そのものを映像記録として残すことも容易にできるわけです。(23ページより)
空気が読めず握れた感じがしない
一方、便利なオンライン会議にも弱点はあります。よく指摘されるのは、「空気が読めない」「集中できない」「腹落ち感が薄い」などの問題。
そのせいで「やりにくい」「話し合いにならない」という意見が出てくるわけですが、いずれも同じ原因に端を発していると著者は指摘しています。
要は、フェイス・ツー・フェイスに比べて言葉以外のメッセージが乏しいのです。 そのため、微妙なニュアンスや発音の真意がつかみづらくなります。
互いの気持ちが通い合わず、集中力も下がり気味になります。合意できても、しっかり握れた感じが今ひとつ持てません。(30〜31ページより)
私たちは人と接する際、ことば以外でも活発にやりとりをするものです。
表情、目線、態度、仕草などの視覚情報もあれば、声の大きさ、トーン、話し方、話す速さなどの聴覚情報もあるでしょう。
たとえば、ことばの上では「申し訳ありません」と言っていたとしても、表情や口振りでは違うメッセージを出していることがあります(ダブルメッセージ)。
そういう場合、多くの人は後者のほうを重視するものです。
つまり、ことば以外のメッセージは、私たちのコミュニケーションの大きな部分を閉めているのです。したがって、それが伝わらないというのは大きな痛手になるわけです。
実際には、オンライン会議であっても、顔をアップにして注視すればニュアンスはわかるものではあります。
とはいっても同じ場所を共有していないのは事実ですから、「自然に感じる」というより「意識して読む」ということになるはず。
そのため、真面目に取り組めば取り組むほど疲れてしまうことも考えられるのです。
またそれ以前に、画質や音質によってはわかりづらい場合も出てくるので、そこでまたストレスがかかる可能性も否定できません。
それは自分が発言する場合も同じで、つまり、ことばが頼りになるということ。
画面と音声を通じて伝えなければならないわけですから、あの手この手を使い、ことばで過不足なく説明する必要性が生じるのです。
不慣れな人だと、なかなか伝わらなかったり、行き違いが生じたりすることもあるでしょう。
それぞれ異なる場所から参加するため、一体感が持てずに気が散る人が出てくることも考えられます。
その結果、慣れないうちはリアルの会議よりも時間がかかってしまったりするもの。しかしそれでは疲れてしまい、長い時間もかけられません。
そのため、効果的に進める方法を会得しておく必要があるのです。(30ページより)
そこで以後の章では、「成功するための段取り」「参加メンバーとしてできること、やるべきこと」「ファシリテーター(進行役)としてやるべきこと」「チームづくりや研修など会議以外への応用」など、オンライン会議に関するさまざまな解説がなされていきます。
今後、オンライン会議がさらに浸透するであろうことは間違いありません。だからこそ、本書を活用してノウハウを身につけておきたいところです。
Photo: 印南敦史
Source: 朝日新聞出版