切なく“ほっとけない”鎧を脱いだ清原 頭の中は◯◯で一杯

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薬物依存症

『薬物依存症』

著者
清原 和博 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163912288
発売日
2020/06/15
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

切なく“ほっとけない”鎧を脱いだ清原 頭の中は◯◯で一杯

[レビュアー] 今井舞(コラムニスト)

 現役引退後、息子たちの野球の試合を見に行くなど、傍から見れば幸せな生活を送っていた。だが、やがて野球選手でもなくホームラン打者でもない自分に嫌気がさし、心の穴を埋めようと酒に溺れ、次に……。薬物に手を出したきっかけをそう振り返る著者。

 逮捕後の入院、通院。薬物への欲求を何とか抑えたと思ったら、今度はうつとの死闘。起きられず、何もしたくない、ただ死にたいだけ。ようやく体に合う抗うつ剤が見つかり、外に出られたと思ったら、次はアルコールとの闘い。いやはや、身から出た錆とはいえ、薬物に手を出した後は、本当に心も体も地獄しかないということが経験者目線でリアルに綴られる。努力が実って少年野球のイベントに球界の著名人と一緒に呼ばれた嬉しさ。けれど自分だけユニホームを着られない寂しさ。あーアップダウン。そしてついまた酒に手が。こうして今も酒に逃げていることも含め、何もかもが正直すぎるほど洗いざらい書かれている。そこに「番長」と呼ばれた往年の面影は一切ない。あるのは鎧を脱いだ裸の清原和博の姿だ。

 バット一本、一人で何十億も稼いできた。誰の力も借りないことが「強さ」だと信じていた。しかし薬物事件を経て、「負けたと認めること、怖いと認めること」が重要だと気づき、そこから「人に頼る」ことの大切さ、ありがたさが身に染みてわかったという。実際、裁判で情状酌量を訴えた佐々木主浩を始め、生活拠点の提供や送迎など、有名無名問わず、支えてくれる人間が常に周囲にいたというのが、他の数多の「薬物依存有名人」とは異なる点といえよう。息子たちとも涙の再会を果たし。「人徳」というより「ほっとけない」の発露なのか。

 今も過去の栄光をよすがとしていることを隠さず、常に野球で頭が一杯。夢は高校野球の監督。その資格取得と並行し、「依存症予防教育アドバイザー」も目指しているそうで。残りの人生は野球と薬物依存症の為に捧げる覚悟だという。「これからは介護の仕事を勉強します」なんちゅういけしゃあしゃあとはダンジョンが違う熱意が伝わってくる。……清原よ、大志を抱け!

新潮社 週刊新潮
2020年8月6日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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