ビートルズ、野球、夏休み 鮮やかに描かれる永遠の青春小説

レビュー

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翼はいつまでも

『翼はいつまでも』

著者
川上 健一 [著]
出版社
集英社
ISBN
9784087476996

書籍情報:openBD

ビートルズ、野球、夏休み 鮮やかに描かれる永遠の青春小説

[レビュアー] 北上次郎(文芸評論家)

書評子4人がテーマに沿った名著を紹介

今回のテーマは「休暇」です

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 川上健一が「跳べ、ジョー! B・Bの魂が見てるぞ」(これは斬新なスポーツ小説だった)で小説現代新人賞を受賞したのは1977年のことだから、もう40年以上前のことになる。そして体を壊したために、1990年の初恋小説の傑作『雨鱒の川』を最後に長い休養に入る。10年後に復活するのが、この『翼はいつまでも』だ。

 ビートルズの「プリーズ・プリーズ・ミー」を米軍放送で聞くしかなかった頃の青森を舞台にした長編で(第1章のタイトルが「お願い・お願い・わたし」だ)、主人公は中学三年生の補欠の野球部員、神山君である。したがってこれは、ビートルズ小説であり、野球小説であり、そして夏休み小説である。

 第2章のタイトルが「十和田湖」となっているように、湖畔で過ごす数日間の夏休みが後半の舞台になっている。そこで語られるのは、初恋であり、性の目覚めだ。友情があり、転校生との出会いと別れがある。いつの時代でも、どこの場所でもあり得た中学三年の夏が、丁寧に、そして鮮やかに描かれていく。

 夏休みが終わっても、まだ物語は終わらない。感動的な野球シーンが待っている。そして、滋味あふれる短いエピローグがいい。30年後、十和田市のホテルの大広間で、中学の同期会が行われるのだ。来るやつもいれば、来ないやつもいる。その後の彼らの人生が駆け足で紹介されていく。そうか、これは永遠の青春小説だ。

新潮社 週刊新潮
2020年8月6日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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