新種の発見 岡西政典著

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新種の発見

『新種の発見』

著者
岡西 政典 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784121025890
発売日
2020/04/21
価格
946円(税込)

書籍情報:openBD

新種の発見 岡西政典著

[レビュアー] 三中信宏(進化生物学者)

 生物界の多様性は人を魅了してやまない。新たに発見された“新種”の生物には、専門の分類学者たちの手で厳密な命名規約に準拠したラテン語の正式名称(学名)が与えられる。動植物の分類や命名という一見地味なこの分野には意外にも一般読者を惹(ひ)きつけるものがある。実際、数年前から独語圏や英語圏では“新種”生物の記載と命名の歴史秘話をたどる新刊が相次いで出版されていることからもそれはうかがえる。

 動物分類学の現在を自伝的に紹介した本書もまた読者をぐいぐい引き込む。著者の専門は深海性の棘皮(きょくひ)動物クモヒトデに属する「テヅルモヅル」だ。やたら長い触手がうねうねとからみあう得体の知れないこの生物の名前(和名)はいったん耳にしたら忘れることはできない。やはりネーミングは大切だ。

 国内外の海に潜ったり博物館を巡り歩く話はもちろん楽しいが、著者のもくろみはむしろ分類学のおもしろさを伝えることにある。生物分類学とはそもそもいかなる分野なのか、進化学・系統学の最先端の知見は分類体系の構築や“新種”の発見にどのように役立てられるのか。著者自身の体験を踏まえた語り口はこの分野のありのままの姿を伝えている。“新種”の発見と命名に心血を注ぐ若き分類学者ならではの“パトス”が行間からにじみ出る。

 著者は繰り返し「分類学は科学である」と強調する。しかし、つい最近『ズータクサ』という有名な動物分類学の国際誌から、学術雑誌の影響度を測る尺度「インパクト・ファクター」が剥奪(はくだつ)されるという事件が起こった。これは分類学の地位を不当に貶(おとし)める“学問的迫害”だと評者はみなしている。分類学はもはや科学とはみなされなくなったのか。ここはやはり、ステレオタイプな既存の科学像にもはや義理立てせず、次世代の分類学は典型科学とは“別種”の科学であるという矜持(きょうじ)を示すべきではないだろうか。分類学固有の“ロゴス”はそこから始まる。

 ◇おかにし・まさのり=1983年生まれ。東大特任助教。動物分類学。日本動物学会論文賞・奨励賞など受賞。

読売新聞
2020年8月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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