本の雑誌の坪内祐三 坪内祐三著

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本の雑誌の坪内祐三

『本の雑誌の坪内祐三』

著者
坪内祐三 [著]
出版社
本の雑誌社
ISBN
9784860114435
発売日
2020/06/19
価格
2,970円(税込)

書籍情報:openBD

本の雑誌の坪内祐三 坪内祐三著

[レビュアー] 平山周吉(雑文家)

◆目いっぱい活字を愛した人生

 「活字があるから人生は楽しい」――これは本書のある章のタイトルである。これほど本書の醍醐味(だいごみ)と、この著者の人生を要約するフレーズはあるまい。

 今年の一月に六十一歳で急逝した坪内祐三ほど、本と雑誌、新刊書店と古書店、業界と編集のオモテウラに甚大な好奇心を持ち続けた筆者兼ウオッチャーはいなかった。

 本書は著者が自らを「スタッフライター」と規定し自負した月刊誌『本の雑誌』を舞台に書きまくり、喋(しゃべ)り尽くし、特集を企画し、司会した全活動(ただし別途刊行されている「読書日記」は除く)を、洩(も)れなく集成したヴァラエティ・ブックである。『本の雑誌』初出の体裁を踏まえて、本文は四段組から一段組までさまざま。どのページからも、読書好き、書店好き、書評好き、目録好き、ゴシップ好き、世間好きの遊びごころが伝わってくる。坪内祐三は読書の幸福を指南してくれる稀有(けう)な人でもあったのだ。

 『本の雑誌』に六時間に及ぶ坪内祐三ロング・インタビューが載ったのは、まだ著書が一冊もない三十八歳の遅れてきた青年の時であった。坪内祐三ブレイクの瞬間である。そうした恩義から『本の雑誌』の「スタッフライター」になったわけではない。雑誌と筆者の相性がこれ以上ないくらいピッタリ合ったのだ。神保町チキンカツ対談、編集長養成講座、昭和の雑文王番付編成会議、文壇バー巡り、図書館探検、平成の社史ベスト1、座談の名手ベスト9といった企画が満載。もちろんオーソドックスな読書案内や映画本、プロレス本などへの目配りも抜かりない。

 坪内祐三が渋谷ハチ公前のようなスクランブル交差点の真ん中に立つとする。その周りを大量の本と様々な著者が交錯していく姿が浮かぶ。坪内祐三はその雑踏をあれこれ全部見渡して、面白いものは一つとして見逃さない。あらゆる角度から拾い集めた活字の宝物が『本の雑誌の坪内祐三』には目いっぱい詰め込まれている。本と雑誌を満喫して逝った人生は、残された読者たちをも幸福にしてくれる。

(本の雑誌社・2970円)

1958〜2020年。評論家。『慶応三年生まれ七人の旋毛曲(つむじまが)り』で講談社エッセイ賞。他に『靖国』など。

◆もう1冊 

坪内祐三著『右であれ左であれ、思想はネットでは伝わらない。』(幻戯(げんき)書房)

中日新聞 東京新聞
2020年8月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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