<東北の本棚>色彩放つ何げない日常
[レビュアー] 河北新報
短編小説の名手にかかると、何げない日常が人間ドラマになって色彩を放つ。
表題作「盆土産」は、出稼ぎに出ていた父が、盆休みにえびフライを携えて主人公の少年が待つ家に帰った日の物語。農家の出稼ぎが当たり前だった時代、青森の片田舎で暮らす少年と姉、祖母が、父の帰省と初めて食べるえびフライに心躍らせる姿がユーモラスに描かれる。
芥川賞作家で八戸市出身の著者は、作中に南部なまりを巧みに登場させる。例えばえびフライは「えんびフライ」。少年の母の墓前で祖母が念仏の合間に唱えた「えんびフライ」、父との別れを惜しむ少年が涙の代わりに思わずつぶやいた「えんびフライ」。繰り返されるたび、えびフライが家族を結び付ける心のこもった土産に姿を変える。
本書は中学や高校の国語教科書掲載作を主に収めた。父を亡くし、雲水の修行に出た少年が母親と再会する「とんかつ」、脳卒中で倒れた祖父を家族が馬車の荷台に乗せて町の病院まで運ぶ「星空」など、登場する人物は皆、家族への不器用な愛情を見せる。
どの作品にも見え隠れする死の影が、人間の「生」を際立たせている。作家が兄の失踪や姉の自死という十字架を生涯背負っていたのと無関係ではないだろう。(長)
中央公論新社03(5299)1730=946円。