お遍路ズッコケ一人旅 波環著

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お遍路ズッコケ一人旅

『お遍路ズッコケ一人旅』

著者
波 環 [著]
出版社
青弓社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784787292544
発売日
2020/04/21
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

お遍路ズッコケ一人旅 波環著

[レビュアー] 飯間浩明(国語辞典編纂者)

 四国遍路は、古くは仏僧の過酷な修行に始まります。やがてそれは巡礼的な性格を強め、中世末・近世には大衆化していきました。

 なんて知識はともかく、著者はまず、四国遍路で大事なのは宿を予約することだ、ということから語り始めます。遍路の途中で日暮れになり、宿を探して歩くのは悲惨だから。

 また、荷物をどうするかも重要。長距離を歩くためには、無駄を省き、最小限のものをリュックに入れなければならない。

 今では自家用車やバスでの遍路も多くなったけれど、著者が約7年かけて実践したのは「歩き遍路」。本書はその方法を伝授する――わけではありません。著者は〈お遍路はきわめて個人的な体験〉と述べます。語る内容も、もっぱら「私はどうしたか」ということです。

 その歩き遍路は、かなりハードです。寒い雨の中、徳島の険しい山道をひたすら歩く。あるいは、構図の変わらない高知の海岸線を、やはりひたすら歩く。考えることは、道を間違えないように、早く着かないかな、まだかな。観光気分ではさらさらありません。

 そんな歩き遍路を、なぜ始めたのか。非常時に一人息子を守るため、自分がどれだけ歩き続けられるのか知りたかったという趣旨を、著者は述べます。息子さんへの思いが垣間見られる記述も何か所かあり、親子愛に突き動かされての巡礼なのかも、と勝手に想像しました。

 苦しい遍路の中で、美しい風景に出合うこともあります。両側にツバキの生け垣が続く田舎道。路上にもツバキが落ちている。きれいでしょうね。そんなひとときの喜びのために、人は苦しい道を歩いて行くのかもしれません。

 なお、私が冒頭に記した知識は、愛媛大学四国遍路・世界の巡礼研究センター編『四国遍路の世界』(ちくま新書)で得たもの。波環さんの著書と同時期に出版された本で、四国遍路の歴史と現在を学問的に論じています。

◇なみ・たまき=1968年、北海道生まれ。北海道の放送局に勤務。著書に『宝塚に連れてって!』。

読売新聞
2020年8月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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