時間をテーマにした手練れの作家の意欲的な短篇集

レビュー

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図書館の子

『図書館の子』

著者
佐々木譲 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334913557
発売日
2020/07/18
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

時間をテーマにした手練れの作家の意欲的な短篇集

[レビュアー] 杉江松恋(書評家)

 手練(てだ)れの作家の新たな武器を見よ。

 佐々木譲『図書館の子』は六篇を収録した作品集だ。佐々木は警察小説や歴史小説など、幅広いジャンルで活躍する作家だが、近年はSF小説への進出を宣言し、意欲的に執筆を行っている。本書もそうした挑戦精神の産物なのである。

 六篇を貫く主題は時間である。過去から未来へと規則正しい時の流れに身を委ねず、遡ったり、逆に棹を刺して速く進もうとする者が現れる。それが特異点となり、見慣れた風景にひずみを生じさせるのだ。

 真夏の陽射しに惑わされて見る、白昼夢のような作品が「地下廃駅」である。昭和三十五年夏のその日、中学一年生の〈わたし〉と同級生の俊夫とは、東京の谷中墓地にいた。京成線の寛永寺坂なる廃駅に防空壕の一つから入ることができるという噂を確かめるべく、二人は地下に下りる。だが、再び地上に出て目の当たりにしたのは、信じられないような光景だったのである。

 収録作の中には、第二次世界大戦前後の時代が描かれるものがある。日本史上の汚点であり、絶対に回避すべき事態だったからであろう。戦争が行われていた時間がいかに苦しみに満ち、また愚かなものであったかが物語から浮かび上がる仕掛けなのだ。東京大空襲の前日譚というべき「遭難者」、張作霖爆殺から三年後の出来事として語られる「傷心列車」などの諸作は、人々の運命が国家の愚行によって狂わされることについての作品と言っていい。

 表題作は、豪雪の図書館に取り残された子供の視点から語られる物語だ。ほとんどの固有名詞を省いて作者は本篇を書いており、叙述形式が幻想的な雰囲気を高めている。五百年の時を超えた魔術を描く「錬金術師の卵」、異邦の恋愛小説と見えたものが次第に変貌していく「追奏ホテル」など、作品形式が毎回異なるのも短篇集として良い。なんとひきだしが多いのだろう、佐々木譲は。

新潮社 週刊新潮
2020年8月27日秋初月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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