家で過ごす時間が多い今 静かな自宅で読むと怖さ倍増のアンソロジー

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家で過ごす時間が多い今 静かな自宅で読むと怖さ倍増のアンソロジー

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 とりわけ怪談が好きでなくても、つい手にとりたくなるのが朝宮運河『家が呼ぶ 物件ホラー傑作選』。というのも、執筆陣が非常に魅力的なのである。

 舞台は洋館だったりマンションだったり一軒家だったり、さまざま。震え上がったのは三津田信三の「ルームシェアの怪」で、男女四人がシェアハウスに同居、やがて一人が姿を見せなくなる。どうも部屋に引き籠っているようだが……という内容。中島らもの「はなびえ」は人間の醜さを見せつけ、高橋克彦の「幽霊屋敷」は怖いと同時に哀しい。小松左京の「くだんのはは」といった有名作品も。他に執筆陣は若竹七海、小池壮彦、平山夢明、皆川博子、日影丈吉、小池真理子、京極夏彦。家で過ごす時間が長くなった昨今、自宅で静かな状態で読むと怖さ倍増。

 家をめぐるホラーといえば、怖すぎて中断できずに一気読みしたのが小野不由美の山本周五郎賞受賞作『残穢』(新潮文庫)。ホラーやライトノベルを執筆している小説家の〈私〉のもとに読者から一通の手紙が届く。住んでいるマンションの部屋で、誰もいないのに畳を擦るような音がするという。以前、差出人と同じマンションの別の部屋の住人からも似た内容の手紙をもらったことを思いだした〈私〉は、この建物について調べはじめる。ドキュメンタリーテイストの淡々とした筆致だからこそ、生々しくて怖い。

 澤村伊智『ししりばの家』(角川ホラー文庫)は、一人の女性が久々に再会した幼馴染みの男の自宅を訪れる。彼が妻と母と暮らすその家は、床にはうっすらと砂が積もりなにかが奇妙である。並行して、その家の近所に住む青年の話も進行する。少年時代、空き家だったその家で恐ろしい思いをした彼は、以来自宅に引き籠っている。彼の元同級生として登場するのが、著者のデビュー作『ぼぎわんが、来る』などでもお馴染みの霊能者、比嘉琴子だ。彼女はかつて、この家で「ししりば」という謎の言葉を耳にした。その意味とは? 後半は恐怖とともに、謎と真相が噛み合うミステリー的快感も味わえる。

新潮社 週刊新潮
2020年8月27日秋初月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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