「ビートルズと日本」 週刊誌の記録 来日編 大村亨著

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「ビートルズと日本」週刊誌の記録 来日編

『「ビートルズと日本」週刊誌の記録 来日編』

著者
大村亨 [著]
出版社
シンコーミュージック
ISBN
9784401649426
発売日
2020/06/30
価格
3,080円(税込)

書籍情報:openBD

「ビートルズと日本」 週刊誌の記録 来日編 大村亨著

[レビュアー] 篠崎弘(音楽評論家)

◆東京公演の熱狂 詳細に分析

 英国のジャーナリスト、ハンター・デイヴィスはビートルズの唯一の公認伝記の中で、ビートルズの一九六六年日本公演のプログラムに触れて「(日本のファンは)世界で最も教養の高いファン」と書いた。日本のビートルズ研究は世界的にも評価が高いと聞くが、本書を読むとなるほどと思わされる。

 ビートルズはこの年六月二十九日に来日して三十日から七月二日まで五回の公演を行い、三日に離日した。著者はその「ビートルズ台風」の克明なドキュメントを既に二冊刊行しているが、本書では主要週刊誌十七誌の当時の誌面を写真で再録して、熱狂ぶりに詳細な解説と分析を加えている。

 膨大な情報量と、それらを丹念に拾い出した著者の努力に、まず驚く。紹介した週刊誌を閲覧できる場所のリストまであり、その姿勢も誠実だ。

 当時ビートルズは直接取材が困難な対象だったため、「(ビートルズが)ロールスロイスを用意しろと指示した」「ファンは日本に三百万人」「ニューヨークの空港では大混乱が起きた」など多くの“怪情報”もメディアを賑(にぎ)わせた。著者はその出典を洗い出し、情報がどう変容したかを冷静に検証する。その結果、本書はビートルズを通した六〇年代メディア論にもなっている。

 日本公演後の八月、ビートルズは公演活動をやめ、スタジオにこもってアルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』を翌年発表。「西洋乞食」「こじき芸人」と揶揄(やゆ)された騒々しいアイドルから世界の音楽界を変えるアーティストへと成長する。だがグループサウンズのブームが起きてロックが歌謡曲のシステムに飲み込まれた日本では、ビートルズの正当な評価が確立するのはずっと後のことだった。

 解散から既に半世紀。今も新しいファンを生み続け、来日の三年後に生まれた人間にこんな本を書かせるビートルズは、やはり唯一無二のアーティストだったと、今更ながら思う。著者はこういう。

 「なぜビートルズだけがこうなのか。その答えは今でも模索され続けている」

(シンコーミュージック・エンタテイメント・3080円)

1969年生まれ。ビートルズ研究家。「ビートルズと日本」の既刊『ブラウン管の記録』『熱狂の記録』。

◆もう1冊 

ハンター・デイヴィス著『増補完全版 ビートルズ 上・下』(河出文庫)。小笠原豊樹、中田耕治訳。

中日新聞 東京新聞
2020年8月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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