今のジャイアンツが最高に面白い理由 「プロ野球死亡遊戯」の中溝康隆が語る

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令和の巨人軍

『令和の巨人軍』

著者
中溝 康隆 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
芸術・生活/体育・スポーツ
ISBN
9784106108655
発売日
2020/06/17
価格
814円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

“今”のジャイアンツも最高です。

[レビュアー] 中溝康隆(ライター)

中溝康隆・評「“今”のジャイアンツも最高です。」

デザイナーとして活動する傍ら、ブログ「プロ野球死亡遊戯」を開設。ブログやWebメディアで執筆したコラムが現役選手の間でも話題となった中溝康隆さんによるジャイアンツ論『令和の巨人軍』が刊行。その中溝さんが今の巨人軍の魅力を語る。

 * * *

 私は、現役巨人ファンである。

 という書き出しに、懐かしさを感じる人も多いのではないだろうか。昭和の時代は、仕事が終わり帰宅すると、ビール片手にテレビの地上波ナイター中継を見て、巨人が負けると不機嫌になるお父さんが日本全国にいた。会社の喫煙所では今日の天気を語るように、昨日の巨人の継投について「王監督も鹿取を投げさせすぎたよ」なんて議論を交わす。典型的な“ジャイアンツオヤジ”たちである。

 1983年(昭和58年)の巨人戦年間平均視聴率は、なんと27・1パーセントを記録。あの頃、ゴールデンタイムにテレビをつけたらいつもやっていた巨人戦は、まさに“国民的娯楽”だった。1979年に埼玉県で生まれた私もG党で、熱烈な原辰徳ファンのジャイアンツチルドレンのひとりだ。まるで教科書のようにプロ野球選手名鑑を暗記し、90年代になっても教室の片隅で、今日の給食について語るように「昨日のゴジラ松井のホームラン見た?」と盛り上がったものだ。

 それが、いつからだろうか? 我々の日常の会話から巨人が消えた。思えば、2001年限りで長嶋茂雄監督が勇退し、02年オフに松井秀喜がニューヨークへ去った。スーパースター不在で徐々に視聴率は低迷し、やがて各局が巨人戦の地上波中継をほぼ打ち切る。高橋由伸が衰え、上原浩治も憧れのメジャーリーグへ。テレビCMでもYGマークを見かけなくなり、最近のジャイアンツで知っている選手は阿部慎之助ぐらい……。もう現在進行形の4番打者やエースは知らない。気が付けば、世の中にそういう元巨人ファンが増えた。

 だが、今の巨人は85年以上の球団史でも屈指の才能が集結している。主将を務める坂本勇人はセ・リーグ史上最年少の通算2000安打を狙い、4番を打つ24歳の岡本和真は松井以来の生え抜き打者3年連続30本塁打に挑戦する。エース菅野智之は、伝説の稲尾和久が持つ最優秀防御率5度のプロ野球記録に挑む。チームを指揮するのは61歳の原辰徳監督である。

 確かにV9を達成したあの頃の巨人は最強だった。でも、今の巨人も最高だ。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で開幕が約3か月遅れ、無観客でのスタートとなる2020年のペナントレースは、日本テレビで巨人の主催試合を開幕戦から5試合連続の地上波放送することが話題となった。エンタメ業界の底力が問われる中、プロ野球への注目度も例年以上に高い。久々に巨人に興味を持った人も少なからずいるだろう。だから、今さらじゃなく、今こそ時代に合わせアップデートした巨人論が求められている。

 この本は現役巨人ファンはもちろん、そんな帰ってきた元G党のあなたに、今のジャイアンツを、つまり「令和の巨人軍」の面白さをプレゼンするつもりで書いたものである。

新潮社 波
2020年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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