消えたママ友 野原広子著

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消えたママ友

『消えたママ友』

著者
野原 広子 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784040643175
発売日
2020/06/25
価格
1,210円(税込)

書籍情報:openBD

消えたママ友 野原広子著

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

 野原広子さんの画風はシンプルだ。人物は四コママンガ風に簡略化されている。ナレーション的な独白や会話は日常語で綴(つづ)られ、ポエム風味もお説教の臭みもない。

 野原さんの描く「ママたち」=現在の社会で主に「ママ」や「妻」の立場にいる女性たちには、とことんリアルな生活感がある。少ない描線でポップに描かれているのに、彼女たちの悩み苦しみ、不安や怒りや閉塞(へいそく)感は、「コミックだから」というチェイサー抜きで、読む者の心にしみ込んでくる。私はたまたま『離婚してもいいですか?』という作品を読んで驚き、巻末のあとがきで、こんなコミックが「レタスクラブ」というハッピーな生活情報誌に連載されていたのだと知って二度びっくり。野原さんの作品を追いかけるようになった。

 最新作の本書も、タイトルどおりの不穏なお話である。春香、ヨリコ、友子、有紀は仲良しのママ友四人組。同じ保育園に通う子供たちも遊び友達で、立場は違えどそれぞれに忙しく幸せな日々をおくっている……と思っていたのに、ある日突然、この輪のなかから有紀が姿を消してしまう。夫のノボルさんばかりか、子供のツバサ君まで置き去りにして。

 有紀はどこへ行ったのか。本当に自分の意思で家出したのか。彼女のスマホをノボルさんが持っているのはなぜ? 残された三人のママ友は疑心暗鬼のうちに、お互いを信じることさえできなくなってゆく。誰かの失踪がまわりの人びとを動揺させ、人間関係の軋(きし)みや秘密を露(あら)わにしてゆくというのは、フィクションの筋立てとしては珍しくない。しかし、本書の素朴で可愛(かわい)らしいキャラクターたちが見せてくれる迷走の心模様は、「あるある」と理解できるからこそ痛烈で痛切なのだ。最悪どうなろうと、大人はまだいい。自分で決める自分の人生だから。だけど、頭を千切(ちぎ)った虫の死骸を集めるツバサ君の、笑みを失った瞳は悲しすぎる。

 ◇のはら・ひろこ=イラストレーター、漫画家。著作に『娘が学校に行きません』『離婚してもいいですか?』。

読売新聞
2020年8月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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