配膳さんという仕事 笠井一子著

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配膳さんという仕事

『配膳さんという仕事』

著者
笠井 一子 [著]
出版社
平凡社
ジャンル
社会科学/民族・風習
ISBN
9784582838275
発売日
2020/04/06
価格
2,420円(税込)

書籍情報:openBD

配膳さんという仕事 笠井一子著

[レビュアー] 通崎睦美(木琴奏者)

 隣家のご主人は配膳さん。その隣は悉皆(しっかい)屋で、そのまた先は湯のし屋さん。私はそんな京都の下京で生まれ育った。こうした説明の仕方がいつまで通じるだろうと、思っていたところにこの本と出会い、まさに膝を打った。

 本書は30年ほど前、料理専門誌に連載され本にもなった「京の配膳さん」に大幅加筆。配膳の仕事と、配膳が活躍した時代の京都を「もてなし」という観点から、探究心旺盛に捉える。

 「配膳さん」とは、京都にのみ生まれた男性だけの仕事。仕事の場は、お茶会、神社・寺院での行事、冠婚葬祭の儀式、能楽関係、呉服展示会、料亭・お茶屋の接待、個人宅での宴会など。あくまでも陰の存在として部屋のしつらいから道具の調達、客の送迎まで、宴や催しを取り仕切り、主人と客人の間に入って双方を円滑に取り持つ。料理の配膳も含まれるが、それは仕事の一部だ。彼らは、茶道、華道、道具類などの専門的な知識はもとより、冠婚葬祭に関する適切な基準値を身体に入れている。ちなみに、固定給はなく、日当とご祝儀が糧となる。

 本書によれば、昭和30~40年頃のピーク時には、西陣で200名ほどの配膳さんが働いていたという。簡略化や合理化が進む中で、婚礼や葬儀が自宅で行われることがほとんどなくなり、配膳さんの活躍の場も激減した。

 配膳さんの歴史についての資料が少ない中、著者は室町時代、文化的教養を持たない地方出身の武家階級が旧勢力の貴族階級をしのぐため、文化面の指南役として側近においた「同朋衆」の存在に注目。彼らこそ配膳さんのルーツとする見立ては、興味深い。

 「お手伝い」を<お手(て)っ伝(た)い>など、随所にいき交う京言葉から「ひとあしらい」の上手(うま)い京都の男性の柔らかい物腰が伝わってくる。時に遠回しで面倒ともいわれがちな京文化だが、失われていくと言われるとなんとも切ない。

 ◇かさい・かずこ=フリーランスのライター。著書に『プロが選んだ調理道具』『棟梁(とうりょう)を育てる高校』など。

読売新聞
2020年8月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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