人事の古代史 十川陽一著

レビュー

8
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人事の古代史

『人事の古代史』

著者
十川 陽一 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784480073112
発売日
2020/06/10
価格
946円(税込)

書籍情報:openBD

人事の古代史 十川陽一著

[レビュアー] 佐藤信(古代史学者・東京大名誉教授)

 古代史を詳しく理解する上で、人事は大事なキーワードである。貴族や官僚世界の実情を考える時、律令の官人制度や勤務評定システムを承知していれば、政治動向の詳細やその時々の人事の機微を知ることができる。ただし、律令官僚制はそれなりに合理的で精緻(せいち)な制度をもっており、堅い制度の全体をつかむのは、初学者には努力と時間が必要となる。古代官人の全貌(ぜんぼう)をわかりやすく解説した書としては、これまで野村忠夫『古代官僚の世界』(塙新書)が随一であったが、刊行されてもう半世紀を過ぎている。本書は、気鋭の著者が、一冊で律令官人制の全体を初学者でも概観できるように、今日的な視角から柔らかい工夫を配した新書であり、大変便利な書となっている。

 古代官人は、天皇との関係から位階を叙位され、その位階と同じ官位相当の官職に任官するのだが、官職に限りがあるため任官できずに無任所の散位(さんに)として散位寮に属し、各所の雑務に派遣される制度があった。本書では、この散位制度が官僚制の運用に果たした役割に注目した点が、新味である。貴族の家政機関に勤める散位や、政争の敗者が散位に落とされる例などにも、ふれる。

 家柄の重視、皇族・貴族の上に厚く下級官人の下に薄い昇進システムや、官人の特権のような制度に関する基本事項はもちろん、政争がらみの人事における報復左遷や飼い殺しなどの実態もとりあげている。さらに、平安時代になっての都市官人の形成、貴族層の再編、官司の縮小や叙位・任官の変化など、官人制の転換までを広く論じているところは、周到な配慮といえよう。

 古代の官人制は、近世の武家官位にも残り、明治国家の官僚制でも模されて、勅任・奏任官制なども採用された。キャリア制など今日の官僚制にもつながる面があるともいえるが、戦後は国民に奉仕する公務員制となった点が、それ以前とは全く異なることにも、留意しておきたい。

 ◇そがわ・よういち=1980年、千葉県生まれ。慶応大准教授。著書に『日本古代の国家と造営事業』など。

読売新聞
2020年8月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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