コロナで“迷走”する「安倍一強」その淵源を解き明かす

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政治改革再考

『政治改革再考』

著者
待鳥 聡史 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784106038549
発売日
2020/05/27
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

コロナで“迷走”する「安倍一強」その淵源を解き明かす

[レビュアー] 竹中治堅(政策研究大学院大学教授)

 2月下旬以降、新型コロナウイルス感染症がメディアで話題にならなかった日はない。諸外国に比べ、死者数を低く抑えてきたものの、安倍内閣の対応は必ずしも円滑なものではなかった。「安倍一強」と首相の指導力が強力なことが喧伝されてきた割には、うまくいっていないのではないか。多くの人が抱く疑問だろう。それを解く鍵を本書は与えてくれる。

 1990年代以降、選挙制度、行政制度、司法制度などを対象に多くの改革が行われてきた。本書は一連の改革を「政治改革」と総称、共通理念、改革の結果を探る。その際、二つのことを重視する。一つは改革が日本の政治行政を近代化・合理化し、問題解決の応答能力を高めるという近代主義右派の理念に基づいていたこと。二つめは改革が多数派の支持を得るために、さまざまな影響を受け、変化を遂げたこと。本書はこのプロセスを“土着化”と呼んでいる。

 一連の改革は、実質的意味の憲法改正に相当するほど統治システムを変革したと本書は鋭く指摘する。ただ、各改革は個別に行われたため、集権化と分権化が同時に進み、全体としての日本の公共部門は整合性を欠くことになる。今回の危機対応との関連で重要なのは選挙制度改革、行政改革、分権改革である。

 1994年の選挙制度改革や2001年の行政改革は政府の応答能力を高めるという理念に基づいて構想された。この結果、政策決定過程における首相の指導力が拡大した。

 一方、分権改革も実施され、中央政府から地方政府への権限移譲が進む。この改革も地方自治体の自律性を高め、その応答能力を強めるべきであるという理念に立っていた。改革は従来からあった分権論と結びつき土着化した。だが、中央政府と地方政府の関係は薄れ、両者の調整はより困難になった。

 今次危機で安倍内閣の対応が順調でないのは内閣自身の判断に負うところも大きい。ただ、同様に重要な要因は地方政府も感染症対策に関する大きな権限を持っているにもかかわらず、内閣と地方政府の調整が円滑に進んでいないことである。背景には一連の改革の方向性が異なっていたこと、分権改革を進める時に、中央政府との調整をいかに行うかという問題について十分な配慮がなされなかったことが深く関係している。

 1990年代以降の日本の公共部門の変革のあり方と、安倍内閣の危機対応について理解する上で必読の書である。

新潮社 週刊新潮
2020年9月3日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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