私は真実が知りたい 夫が遺書で告発 「森友」改ざんはなぜ? 赤木雅子、相澤冬樹著

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私は真実が知りたい 夫が遺書で告発 「森友」改ざんはなぜ? 赤木雅子、相澤冬樹著

[レビュアー] 永田浩三(武蔵大学教授・ジャーナリスト)

◆記者と被取材者の連帯

 取材者と取材を受けるひと。両者はどういう関係にあるのだろう。わたしはドキュメンタリーの世界に長く身を置いてきたが、しばしば「共犯関係」という言葉が使われる。しかし、共犯という言葉にはどうも抵抗がある。

 この本の著者はふたり。ひとりは、国有地値引き売却の公文書の改ざんをさせられたことに苦しみ自殺した赤木俊夫氏の妻・雅子さん。もうひとりは、森友問題の真相に迫りながら、NHKを去らねばならなかった相澤冬樹さん。ふたりのせめぎ合いは緊張感にあふれ、いつしか連帯感が漂うようになる。

 二〇一八年十一月、雅子さんから相澤記者に会いたいというメールが届く。出会いの始まりだ。大阪梅田で、雅子さんは、夫・トッちゃんの遺書を見せる。しかしこう言う。「もしこれが世に出されたら私は死にます」。記者としてどうすればよいのか。

 相澤記者は関係をつなぎ、公表できる時を待った。その間、一年四カ月。

 文書改ざんに関わった五人はみな栄転していた。おかしくないか。雅子さんは、関係者に直接問いただす。上司の池田氏は、八億の値引きには問題があると明確に言った。元管財部長の楠氏に対しては相澤記者も同行。警察が呼ばれることもあった。

 ふたりにとって支えになったドキュメンタリーがある。ニューギニアでの日本兵殺害と人肉食に迫った『ゆきゆきて、神軍』である。主人公・奥崎謙三氏の激しい追及と、ときおりのぞかせる遺族への優しさ。たしかにこのふたりの関係と重なるものがある。

 胸をつかれる言葉がある。夫はなぜ命を落とさなければならなかったのか。雅子さんは真相を明らかにするために裁判に踏みきる。そこで弁護士が言うのだ。「あんた、一人でつらかったやろなあ」。つらさをわかろうなんて不遜だ。だがわかろうと努力することはできる。それが取材かもしれない。この本は、つらさを抱える人間たちが、尊厳を賭けて、政権や国家という巨大でたちの悪い相手に立ち向かい、公共とは何かを問う崇高な物語だ。

(文芸春秋・1650円)

赤木 1971年生まれ。自死した近畿財務局職員の妻。相澤 1962年生まれ。NHK記者を辞め、大阪日日新聞記者に。

◆もう1冊 

永田浩三著『NHKと政治権力』(岩波現代文庫)。番組改ざんを内側から描く。

中日新聞 東京新聞
2020年8月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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