「私にはぜったいムリ症候群」から抜け出し「情熱」を持続させる、重要な3要素とは?

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「私にはぜったいムリ症候群」から抜け出し「情熱」を持続させる、重要な3要素とは?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

パッション・パラドックス 情熱をマネジメントして最高の仕事と人生を手に入れる』(ブラッド・スタルバーグ、スティーブ・マグネス 著、池村千秋 訳、左右社)の2人の著者は、2017年に『PEAK PERFORMANCE 最強の成長術』(ダイヤモンド社)において「高い成果を上げるための方法論と科学的知見」を掘り下げてみせました。しかしその際、目覚ましい業績を残した人たちには、ひとつの共通点があるということに気づいたのだそうです。

それは、押しとどめようのない衝動、尽きることのないハングリー精神、そして現場にけっして満足しない姿勢――ひとことで言えば、情熱である。(「はじめに――なぜ、情熱について考えるべきなのか」より)

そして、そんな思いは次のような疑問へとつながっていったといいます。

情熱は、どのようにして生まれるのか。人はどうすれば情熱を見いだし、情熱の炎を大きくできるのか。ほかの活動に支障が出るような取り組みを情熱的に追求しようと決意するとき、人はどのような考え方をすべきなのか。人はどのようなときに情熱を失うのか。情熱はつねに好ましいものなのか。それとも、情熱をもつことは依存症と似たようなものなのか。情熱をもって生きるために適切な方法はあるのか。その方法は、ものごとに全身全霊でぶつかっていくことなのか。(「はじめに――なぜ、情熱について考えるべきなのか」より)

つまりは、これらが本書のコンセプトとなっているのです。

「私にはぜったいムリ症候群」

人はなにかに興味をそそられたとしても、そのまま放置してしまうことが多いもの。「いまは忙しいから」と考え、目先の課題やスマートフォンに注意を向けてしまったりするわけです。あるいは、「好ましい結果にはならないだろう」と決めつけてみたり。

著者は、このような抵抗感を「私にはぜったいムリ症候群」と呼んでいます。そして、それは年齢を重ねるごとに強まっていくのだとも指摘しています。こうした思考パターンに陥ると、「これまでこういう道を歩んできたのだから、その道を歩き続けることが最善だ」と考えるようになるわけです。しかし当然ながら、そうしたスタンスに著者は共感を示しません。

これまで歩んできた道と違っても、言い換えれば、これまで形づくってきた自我と衝突するように思えたとしても、興味を引かれたものを追求してみなければ、自分が正しい道を歩んでいるかわからない。それまでどのような経験をしていようと、自分をひとつの枠に押し込むことは避けるべきだ。(67ページより)

なぜなら、新しいものを受け入れる姿勢を持たず、試すこともせずに、それらをくだらないと決めつけた結果、情熱が形をなさずに消えていくケースは少なくないから。

したがって、探究の精神を持つことはきわめて重要。情熱の対象を見出すまでの道は長く、期待外れに終わるケースもあるかもしれません。それでも、勇気を持って探究を続けるべきだということです。(66ページより)

モチベーションが続く3要素

1970年代前半に、心理学者のエドワード・デシとリチャード・ライアンが「自己決定理論」という考え方を発展させ、モチベーションに対する科学界の見方を大きく変えたそうです。その新たな仮説によれば、モチベーションの主たる原動力は、お金や名誉や他者からの評価などの外的評価ではないのだとか。

モチベーションを長続きさせるためには、「有能感」「自律性」「関係性」という3つの基本的なニーズが満たされる必要があるというのです。

・有能感

「自分の努力がどのような結果をもたらすか」をコントロールできていると感じ、「次第に進歩していける」と思える必要があります。がんばれば進歩できると思えなければ、努力への意欲を持つことは難しいからです。

自分がやっていることに手応えを感じたいというのは、誰もが持っている欲求。努力するのであれば、誰しも成果を手にしたいわけです。

・自律性

「自分らしさ」ということばが使われることも。つまり、自分という人間の本質と矛盾しない生き方をする必要があるということです。それは、「自分がどんな人間か」と「自分がなにをするか」を一致させることと言ってもよいと著者。自分の中核的価値観や信念を反映した仕事に就き、仕事を通じて自分の本質の一部を表現すべきだということです。

今日の経済では内的な充実感よりも外的な報酬が重んじられるため、自律性を得られていない人が多いのも事実。しかしワシントン大学の研究チームの論文によれば、情熱と幸福感を長続きさせるためには自律性が不可欠なのだそうです。論文の一部は以下のとおり。

仕事を通じて本当の自分を表現できていると感じられることには、人生に方向性と目的をもたらすという大きな利点がある。仕事をすることにより、「私は何者か」「私は人生で何をすべきか」といった根本的な問いに答えることができる。(70ページより)

重要なのは、立ち止まり、自らに深く問いかけること。そういった内省を行えば、有意義な時間を過ごせるといいます。

・関係性

他の人たちとのつながりを感じることも大切。人は自分が大きなものと結びついているとか、その一部であると感じられることを好むからです。集団で行動することがつねに最善の結果を生むとは限らないものの、大きな集団との結びつきを感じられる活動が長続きしやすいことはたしかなのです。

以上の3つのニーズを満たす活動は楽しく、長続きする可能性が高いもの。そして情熱を持続させるには、これらの条件を満たすことが不可欠。そのため、これらの条件を満たす活動にこそ夢中になるべきだと著者は主張しています。(69ページより)

本書を通じて情熱とのつきあい方を学べば、自分を燃え尽き状態に追い込んだり、人生を火だるまにしたりするような情熱ではなく、自分を光り輝かせてくれるような情熱の育み方を知ることができるといいます。自分自身の内部に根差す情熱をプラスに活用させたいのであれば、ぜひ手に取ってみたい一冊です。

Photo: 印南敦史

Source: 左右社

メディアジーン lifehacker
2020年9月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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