<東北の本棚>求道者の姿くっきりと

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柔の道 斉藤仁さんのこと

『柔の道 斉藤仁さんのこと』

著者
山下 泰裕 [編集]
出版社
講談社
ジャンル
芸術・生活/体育・スポーツ
ISBN
9784065203903
発売日
2020/06/29
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

<東北の本棚>求道者の姿くっきりと

[レビュアー] 河北新報

 ロサンゼルス五輪(1984年)、ソウル五輪(88年)の柔道男子95キロ超級で金メダルに輝き、引退後は日本代表の監督を務めた青森市出身の斉藤仁さん(1961~2015年)。がんを患い54歳で亡くなるまでの起伏ある人生を本書の編者で最大のライバルだった山下泰裕さんや家族、友人ら10人が語る。それぞれの証言は、求道者のように心身を鍛え続けた柔道家のストイックさや内面を大切にした飾らない人柄をくっきりと描き出している。
 ライバルを倒す強い気迫を感じるのは、山下さんが日本代表合宿の思い出を振り返る場面だ。斉藤さんはいつも、3学年上で目標の山下さんと稽古をしたがった。追われる立場の山下さんは手の内を明かしたくない。他の選手の前で投げ飛ばしたり、絞めたりして、あえて恥をかかせた。しかし、斉藤さんは懲りずに、山下さんの懐に入ろうとし続けたという。
 自身にも周囲にも厳しかった武道家の原点は、父伝一朗さんの厳格さだろう。斉藤さんの弟悟さんは、父を漫画「巨人の星」の星一徹になぞらえる。「男は足腰を鍛えなきゃいかん」と、伝一朗さんが小学生だった斉藤さんに鉄げたをはかせ通学させた話は強烈だ。
 指導者となった斉藤さんを、弟子たちは「次元の違う怖さ」「鬼」と呼ぶ。一方で、本書に登場する多くの人が「鬼」の振る舞いを「後になって意味が分かった」と述懐する。斉藤さんが日本代表監督時に選手だった井上康生さん(現日本代表監督)は、自衛隊に体験入隊させられ高所での過酷な練習を経験する。当時は疑問を抱いたが、自身が指導者となり、精神的な強さを追求する恩師の考えを理解できたという。
 家族・友人の話も興味深い。有名になっても古いアパートに住み、小さな車に乗り続けた姿からは外見にこだわらない実直さが伝わる。(安)

 講談社03(5395)4415=1650円。

河北新報
2020年9月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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