インドネシア大虐殺 倉沢愛子著 中公新書/楽園の島と忘れられたジェノサイド 倉沢愛子著 千倉書房

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インドネシア大虐殺

『インドネシア大虐殺』

著者
倉沢 愛子 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784121025968
発売日
2020/06/23
価格
902円(税込)

書籍情報:openBD

楽園の島と忘れられたジェノサイド

『楽園の島と忘れられたジェノサイド』

著者
倉沢 愛子 [著]
出版社
千倉書房
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784805112052
発売日
2020/07/10
価格
3,520円(税込)

書籍情報:openBD

インドネシア大虐殺 倉沢愛子著 中公新書 820円/楽園の島と忘れられたジェノサイド 倉沢愛子著 千倉書房 3200円

[レビュアー] 加藤聖文(歴史学者・国文学研究資料館准教授)

 観光地で有名なバリ島は、あちこちの道にも浜辺にも虐殺された人びとの遺骸が今も埋められている。観光客相手に微笑(ほほえ)み、霊魂を今でも恐れる住民と、わずか半世紀前に起こった凄惨(せいさん)な事件はどうしても結びつかない。

 インドネシア独立の英雄スカルノは、1966年3月、スハルトの「這(は)うようにして進められたクーデター」で権力を追われた。この権力闘争の真っ只(ただ)中に起きたのが、インドネシア全土で繰り広げられた共産主義者(といわれた人)に対する虐殺事件だ。その犠牲者は少なくとも50万人、一説では200万人ともいわれる。

 カンボジアのポル・ポト政権による大量虐殺に匹敵するにもかかわらず、この事件はほとんど知られていない。米ソともにスカルノを警戒し、彼を追い落としたスハルトを歓迎、政権誕生の暗部である虐殺事件を不問にしたからだ。

 デヴィ夫人はじめスカルノと深い結びつきがあった日本も、スハルト政権と経済的結びつきを深めるなかで事件に目をつぶった。

 忘れてはならない歴史が忘れ去られていく現実に、倉沢は覚悟をもって向き合った。虐殺事件発生の政治的背景、そして虐殺の実態、マクロとミクロ両面から大虐殺の全容に迫った2著は、怒りと悲しみのなかで書き上げられた。

 現地に入って、虐殺された側も虐殺した側も、いずれの人びとにも真摯(しんし)に耳を傾け、貴重な証言を丹念に拾い集め、文書資料と突き合わせていきながら、事件の全容を少しずつ明らかにしていく。その姿は、この事件を若い世代に伝えていこうという覚悟がにじみ出ている。

 「決して歴史を忘れるな」。敗者となったスカルノの最後の演説は、今なおインドネシアの人びとにも、さらにはこの事件に無関心だった私たちの心にも深く突き刺さる。

 ◇くらさわ・あいこ=1946年生まれ。慶応大名誉教授。著書に『日本占領下のジャワ農村の変容』など。

読売新聞
2020年8月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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