コロナ後の世界 大野和基編

レビュー

5
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コロナ後の世界

『コロナ後の世界』

著者
ジャレド・ダイアモンド [著]/ポール・クルーグマン [著]/リンダ・グラットン [著]/マックス・テグマーク [著]/スティーブン・ピンカー [著]/スコット・ギャロウェイ [著]/大野 和基 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784166612710
発売日
2020/07/20
価格
880円(税込)

書籍情報:openBD

コロナ後の世界 大野和基編

[レビュアー] 橋本五郎(読売新聞特別編集委員)

 人類にとって未知のウイルスがあぶり出したものは何なのか。世界はどう変わるのか。地理学、理論物理学、心理学、経済学など専門を異にする世界の碩学(せきがく)6人が平易に語った本書には、その解答がある。

 論者に共通しているのは、民主主義体制に対する強い自信である。感染症には独裁国家の方が有効に対処できるという見方を一蹴(いっしゅう)する。独裁主義体制では都合の悪い情報は隠蔽(いんぺい)し、支配者の正当性にしか関心を示さなくなるからだ。

 本書の特徴は、新型コロナウイルスに襲われたことを、過度の悲観主義に陥ることなく、むしろポジティブにとらえようとしていることだ。公衆衛生や専門的な技能と組織の大切さを教えてくれたし、国際協力がいかに重要かも再認識させた。

 日本のあるべき姿についても多くの示唆を与えてくれる。日本人は人口減少に危機感を抱いているが、むしろ利点とみるべきだ。人口が減少すればそれだけ必要とする資源が減るからであり、移民で十分対応できるからだ。高齢化社会を嘆いているが、高齢者は活気に溢(あふ)れ、社会に貢献できる存在と考えるべきなのだ。

 本書は「ジャーナリズムの罪」に警鐘を鳴らしている。この惑星で起きている最悪のことばかり報道し、墜落事故が起きれば飛行機がいかに危険かしか報じない。しかし、墜落事故の死者は過去45年で100分の1になり、より安全になっている。それを伝えないと我々の努力は失敗の連続と思われ、無力感や宿命論だけに襲われてしまう。

 精緻(せいち)になったデータを正しく理解することも重要だ。原発はより安全なエネルギーである。発電1キロ・ワット時あたりの死者は原発を1とすると、石油は243、石炭は387にもなる。AI(人工知能)はいつか暴走して人間を支配するのではないかという思い込みも誤りだ。決めるのは人間なのだ。啓蒙(けいもう)の書は私たちに呼びかける。「慌てるな。落ち着け!」「立ち止まって考えろ!」。

 ◇おおの・かずもと=1955年生まれ。ジャーナリスト。インタビュー・編書に『未来を読む』『未完の資本主義』。

読売新聞
2020年8月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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