『ホーム』堂場瞬一著 19年越しの「続編」で問う
[レビュアー] 喜多由浩(産経新聞社 文化部編集委員)
警察小説のイメージが強い作家だが、デビュー作は、野球小説(平成13年『8年』)だった。五輪日本代表チームのピッチャーだった藤原雄大が30歳を超えてから米メジャーリーグにチャレンジする物語。本作は、デビュー作から実に19年越しの「続編」にあたる。
50代になった藤原は、いまだアメリカに居てマイナーリーグの投手コーチを務めている。いろんな事情で藤原に、東京五輪の米代表チームの監督の就任要請が来るのだが、メンバーを見ると、どうにも「打力」が弱い。そこで藤原はウルトラCを思いつく。アメリカ生まれながら日本の大学野球で活躍中の19歳、二重国籍のスラッガーを獲得するプランだった。
日・米で揺れ動いた大学生は「米」を選択する。実力は折り紙付きだが、「日本人」の外見をした男に、チーム内の視線は冷たい。もちろん、日本人監督の藤原に対しても…。
この設定は、「今日的」かつ「現実的」で興味深い。昨年、日本で開催されたラグビーのW杯。日本代表チームの顔ぶれは外国籍あり、日本への帰化組あり、と実にバラエティーに富んでいた。あるいは、テニスの大坂なおみ選手、陸上短距離のケンブリッジ飛鳥選手、卓球の張本智和選手…らハーフだったり、帰化した選手。逆に、五輪のマラソンに出るために、カンボジア人になった、お笑いタレントもいたっけ。
スポーツや五輪にとって「国籍」とは何か? アイデンティティーにとって重要なのは「外見」なのか、「血」なのか、あるいは「その国への忠誠心」か。いやいや、活躍できる場があるなら、そんなことはどうだっていい、という選手だっているはずだ。タイトルの『ホーム』は、まさしくそれを問い掛けているのだろう。
それにしても“引き出し”の多い作家だ。本作を含め、4カ月連続で違う競技、テイストのスポーツ小説を、それぞれ別の出版社から刊行するという“離れ業”をやってのける。
本作を含め、これまでの作品を読むと、スポーツ小説には付き物の「勝敗」のつけ方(結末)にも、著者は美学を持っているらしい。もちろんそこは読んでのお楽しみ。(集英社・1700円+税)
評・喜多由浩(文化部編集委員)