圧倒的なリアリティで描かれる北朝鮮の脅威と海自特殊部隊の「義」

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邦人奪還 : 自衛隊特殊部隊が動くとき

『邦人奪還 : 自衛隊特殊部隊が動くとき』

著者
伊藤, 祐靖, 1964-
出版社
新潮社
ISBN
9784103519928
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

圧倒的なリアリティで描かれる北朝鮮の脅威と海自特殊部隊の「義」

[レビュアー] 橘ケンチ(EXILE)

 なんともインパクトのあるタイトルから伝わってくる切迫感。生半可な気持ちでは読めないなという思いと共にページをめくりました。臨場感に富んだ圧倒的なリアリティに、あっという間に作品の世界に引き込まれていきました。海上自衛隊特別警備隊の存在を初めて知り、その想像を超えた極限の任務に驚愕の連続でした。人間は肉体的にここまで強くなれるものなのか? 精神はどこまで広がっていくのか?? 秘密裏に行われる北朝鮮からの邦人奪還計画。気づくと実際の歴史とシンクロさせながら読んでいる自分がいました。

 北朝鮮の拉致問題に関して、メディアで報じられる内容しか受け取ることのない自分からすると、謎に包まれた部分がとても多い。だからこそ、こういった作品を読むとその謎が少しずつ解けていくような感覚にも陥りました。北朝鮮の内部はそこまで細かく描かれているわけではないのですが、二国間の問題だけではない、更に大きな闇が見えてくる描写もあり、この世界はどこを目指すのか? そんな疑問と共に自分の無力さを思い知りました。

 僕は横須賀出身で、昔アルバイトをしていた店に防衛大学校の学生さんがよく来ていました。本書にある通り、とにかくよく飲んでよく食べておられた印象があります。当時はなんとも思わなかったけれど、あの時の学生達は今、自衛官として国を守る任務についているんだろうか? そんな思いが頭をよぎりました。日本という豊かな国に生まれ育ち、国を批判する人もいるけれど、国民一人一人がどれだけその恩恵を受けているか。知ろうとしない人は一生わからないだろう。でも僕は知りたい。普段自分がしている仕事とはかけ離れた世界で人知れず国のために働いてくれている方々がいるということを。

 人が集まると、そこには社会が生まれます。小さなものから大きなものまで。その最たるものが「国」なのだと思います。多くの人の人生、思惑が交錯する社会。その中で自らの役割を認識して生きている人は強く、時にはかない。自分はそんな生き方ができているのだろうか?

 登場する隊員達のように悩み、葛藤しながらも、自分の信じる「義」に命をかける。普通ではできない生き方。でも同じ日本人で実際にこんな生き方をしている人達がいるんだ。そのおかげで僕らはこうして平和に暮らせているのかもしれない。日本人として美しく生きるとはどういうことなのか? この本を読んで深く考えさせられました。

新潮社 週刊新潮
2020年9月10日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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