『氷点(上)』
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『氷点(下)』
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主人公の生き方に影響を与えた洞爺丸沈没事故
[レビュアー] 梯久美子(ノンフィクション作家)
書評子4人がテーマに沿った名著を紹介
今回のテーマは「台風」です
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1954年9月26日の夜、函館から青森に向かっていた連絡船・洞爺丸が台風のため沈没。乗客乗員1314人中、死者・行方不明者あわせて1155人という大惨事となった。
気象庁によって「洞爺丸台風」と名付けられたこの台風が重要な役割を果たすのが、三浦綾子のデビュー作『氷点』である。
舞台は旭川。医師である辻口の娘が遺体となって見つかる。妻が若い男性医師と二人きりになるために娘を家の外に追いやり、そのせいで連れ去られたことを知った辻口は、妻への復讐心から犯人の子を養女にして妻に育てさせる。
そこから始まる愛憎劇はテレビドラマにもなり、『氷点』はベストセラーとなった。ある年齢以上の人なら、ヒロインを演じた内藤洋子の清楚なたたずまいを覚えているのではないだろうか。
洞爺丸台風が描かれるのは物語の中盤だ。学会に行くために洞爺丸に乗っていた辻口は急病の女性を診ていたが、彼女の救命具のひもが切れてしまう。
自分の救命具を与え、みずからの命と引き換えに女性を助けたのは、乗り合わせた外国人宣教師だった。この経験がその後の辻口の生き方に影響を与えるのである。
この挿話は事実に基づいている。洞爺丸には二人の外国人宣教師が乗っていた。彼らは救命胴衣を他の乗客に渡し、自分たちは亡くなった。敬虔なクリスチャンだった三浦綾子はこの話に感銘を受け、取材をして小説に取り入れたという。