知れば世界の動きが見えてくる、「地政学」の基本的な6つの概念

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知れば世界の動きが見えてくる、「地政学」の基本的な6つの概念

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

インターネットを使えば海外のニュースにも簡単にアクセスでき現代においては、 “国際情勢”もすっかり身近なものとなりました。世界がどんどん小さくなり、グローバル化が進んだわけです。

そんななか、地球全体をマクロな視点でとらえ、世界各国の動向を分析する「地政学」の重要度が増していると主張するのは、『サクッとわかるビジネス教養 地政学』(奥山真司 監修、新星出版社)の監修者。

2020年現在、新型コロナウイルスの蔓延により世界中で未曾有の大混乱が起こっています。

この混乱の背後で、アメリカと中国は世界の覇権をめぐって“新冷戦”ともいえる頂上決戦を行っているのにお気づきでしょうか?

この決戦は、世界の将来を左右するものですから、海外で活躍するビジネスマンなどは当然として、ほとんどすべての人に影響を与えるでしょう。こうした世界的な動きを正確に把握するには、地政学的な視点が絶対に必要なのです。(「はじめに」より)

国際政治を「劇」とするなら、地政学は「舞台装置」だと言います。

「劇」の裏側で、そのシステム全体の構造を決めているのは「舞台装置」。

したがって、国際政治の表面的な部分だけでなく、その裏側にある各国の思惑を理解するためには、地政学の考え方を身につける必要があるというのです。

そのような考え方に基づく本書から、地政学の基本的な概念を紹介しているChapter 1「地政学のルールを理解せよ! 基本的な6つの概念」に焦点を当ててみましょう。

概念1:地政学を駆使すれば世界を「コントロール」できる!?

地政学とは、簡単にいうと「国の地理的な条件をもとに、他国との関係性や国際社会での行動を考える」アプローチ。

例えば、海に囲まれ、大軍が押し寄せるリスクが少ない日本と、内陸国で常に攻め込まれるリスクのあるウズベキスタンでは、防衛戦略は異なります。

防衛以外でも、国際政治やグローバル経済などでの国の行動には、地理的な要素が深く関わっているのです。(16ページより)

そんな地政学の最大のメリットは、自国を優位な状況に置きつつ、相手国をコントロールするための視点を得られること。

地政学を利用すれば、「戦争で領土を奪う」というリスクの高い手段を用いることなく、「相手国から原料を安価で買う」など、経済的なコントロールを考えることが可能になるわけです。

また国家の振る舞いには「利益」「名誉」「恐怖」など、リアルな本能の部分が関わっているもの。地理的な側面から国家の振る舞いを検証する地政学を学べば、「国の本音」を見抜けるわけです。(16ページより)

概念2:他国をコントロールする戦略「バランス・オブ・パワー」は猿山理論

地政学の最大のメリットである“相手をコントロール”するための重要な考え方が、「バランス・オブ・パワー」と「チョーク・ポイント」。

前者は、日本語にすれば“勢力均衡”。つまりは突出した強国をつくらず、勢力を同等にして秩序を保つという国際関係のメカニズムです。

これを地政学的に考えると、上位の立場の国が、下位の国へ仕掛ける戦略が見えてきます。

例えば、1位の国が勢力を増した2位の国に対し、3位以下の国と協力しながら挟み込んで国力を削ぐというもの。

2位以下の勢力を均一化し、抵抗を不可能にするという考え方で、内容的には、猿山のボスと、その他の猿の力関係のようなシンプルな理論です。(18ページより)

「バランス・オブ・パワー」によって世界を制覇したのが大英帝国、すなわち昔のイギリス。

イギリスは世界中の国と戦って勝利したのではなく、無敵艦隊を誇るスペインや、ナポレオンのいるフランスなど、ユーラシア大陸で強大な勢力が登場したときだけ、周辺国と協力しながら戦って世界を制覇したということです。

また、常に「バランス・オブ・パワー」を意識した対外戦略を展開しているのが冷戦以降のアメリカです。(18ページより)

概念3:「チョーク・ポイント」をおさえて国家の命綱である「ルート」を支配する

もうひとつの「チョーク・ポイント」を知るためには、まず「ルート」を知っておく必要があるそうです。

なお、ここでいうルートとは交通の道(海路)のこと。

グローバル化といわれる現在でも国から国、また、中東やアジアなどエリア間の大規模な物流の中心は海路であり、国家の運営においてルートは命綱です。

「チョーク・ポイント」とは、このルートを航行するうえで絶対に通る、海上の関所。(20ページより)

具体的には、陸に囲まれた海峡や、補給の関係で必ず立ち寄る場所。世界に10箇所ほど存在するといわれているそう。

ルートを支配するには、他国のコントロールに直結するチョーク・ポイントをおさえる必要があり、現在、世界の多くのチョーク・ポイントをおさえているのが米海軍です。(20ページより)

概念4:「ランドパワー」と「シーパワー」の正体

地政学の基礎的な概念である「ランドパワー」とは、ユーラシア大陸にある大陸国家で、ロシアやフランス、ドイツなどが分類されます。

一方の「シーパワー」とは、国境の多くを海に囲まれた海洋国家のことで、日本やイギリス、大きな島国と見なされるアメリカなどがそれにあたります。(22ページより)

人類の歴史では、大きな力を持ったランドパワーの国がさらなるパワーを求めて海洋へ進出すると、自らのフィールドを守るシーパワーの国と衝突するという流れを何度も繰り返しているそう。

つまり大きな国際紛争は、常にランドパワーとシーパワーのせめぎ合いだということです。(22ページより)

概念5:大きな紛争は「ハートランド」のランドパワーと「リムランド」のシーパワーの衝突

対して、地球上の領域に関する重要な概念が「ハートランド」と「リムランド」。

ハートランドとは、文字通りユーラシア大陸の心臓部で、現在のロシアのあたり。

寒冷で雨量が少なく、平坦な平野が多いエリアです。古くから人が少なく、文明もあまり栄えていません。

一方、「リムランド」は、主にユーラシア大陸の海岸線に沿った沿岸部で、温暖で雨量が多く、経済活動が盛んなエリアです。

世界の多くの大都市がこの場所にあり、人口が集中しています。(24ページより)

歴史上、厳しい環境にあるハートランドの国は、豊かなリムランドの国にたびたび侵攻しており、衝突しているそう。

つまり地政学的には、リムランドは「ハートランドのランドパワー」と「周辺のシーパワー」という勢力同士の国際紛争が起こる場所だということです。(24ページより)

概念6:コントロールに必須の「拠点」の重要性

相手をコントロールする際にもうひとつ欠かせないのが、足がかりとして“拠点”をつくること。

あるエリアをコントロールするには、その付近に拠点をつくり、レーダーで監視をしたり、軍隊を駐屯するなどして影響力を保持することが重要だということ。

そして必要があれば、その影響の及ぶ範囲内に新たな拠点を置き、進行していくわけです。

たとえばロシアとウクライナが対立した1024年のクリミア併合には、拠点の奪還という意味が。

そんなところからもわかるように、国と国との小競り合いは、コントロールに必須の拠点争いが原因であることが多いのです。(26ページより)

解説もわかりやすく、イラストや図版も豊富。そのため地政学を読んでみれば、地政学の基礎や世界情勢が無理なく理解できることでしょう。

ぜひとも、手もとにおいておきたい一冊です。

Photo: 印南敦史

Source: 新星出版社

メディアジーン lifehacker
2020年9月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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