影を呑んだ少女 フランシス・ハーディング著

レビュー

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影を呑んだ少女

『影を呑んだ少女』

著者
フランシス・ハーディング [著]/児玉 敦子 [訳]
出版社
東京創元社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784488011017
発売日
2020/06/22
価格
3,630円(税込)

書籍情報:openBD

影を呑んだ少女 フランシス・ハーディング著

[レビュアー] 南沢奈央(女優)

 “海外小説”“歴史”“ファンタジー”という、普段あまり手に取らない要素が三つも掛け合わさった本書を、私は我を忘れて一息に読み切ってしまった。まるで主人公に憑依(ひょうい)したかのように。というのも、主人公のメイクピースはこの言葉の通り、憑依させる能力、つまり幽霊を自分の中に取り込む特殊な能力を持っている少女なのである。

 物語の舞台は、17世紀ピューリタン革命期の英国。メイクピースは母親と死に別れ、亡き父方のフェルモット一族の屋敷に引き取られることになる。そこで酷(ひど)い扱いを受けながら孤独な暮らしを送る中で、一族の恐ろしい秘密を知ってしまう。さらにその為(ため)に自分が利用されることを察し、屋敷で出会った異母兄弟のジェイムズと脱走を画策するが、国では対立した王党派と議会派の内戦が始まり、思いがけず巻き込まれていくことになる――。

 幼い頃から、入ろうと襲ってくる幽霊とたたかい、心の防御を固めてきたメイクピースだが、実はある幽霊がとりついていて、時折メイクピースの身体を使ってその顔を覗(のぞ)かせる。暗い場所でも見える目、鋭い嗅覚、強い警戒心、凄(すさ)まじい腕力、低いうなり声、森の知恵。なんとクマの幽霊がとりついているのだ。だが、いつ他の人に裏切られるかわからないと思いながら生きてきたメイクピースにとって、クマをはじめ、その後とりついた幽霊たちとは時にケンカをしながら、痛みを分かち合う友になっていく。幽霊によって閉ざされた心の扉が、幽霊によってまた開かれるのだ。

 これまでちゃんと向き合えなかった自分の内面に踏み込んでいく。そこでいくつも行き交う思考に出会い、耳を傾け、自分自身の信念を見つけることの意味を知る。価値観が大きく揺らいだ時代に、自分の運命を自分で切り拓(ひら)いていった一人の少女の、その逞(たくま)しく成長する姿に魂が震えた。児玉敦子訳。

 ◇Frances Hardinge=英国のファンタジー作家。著書に『嘘(うそ)の木』『カッコーの歌』など。

 ※原題は A Skinful of Shadows 

読売新聞
2020年9月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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