殿、それでは戦国武将のお話をいたしましょう 山崎光夫著

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殿、それでは戦国武将のお話をいたしましょう

『殿、それでは戦国武将のお話をいたしましょう』

著者
山崎 光夫 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784120053085
発売日
2020/05/20
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

殿、それでは戦国武将のお話をいたしましょう 山崎光夫著

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

 貝原益軒と言えば、江戸時代の健康啓蒙(けいもう)書『養生訓』を著した人として有名だ。クイズの回答ならそれだけで正解なのだが、実は益軒は博覧強記の知識人であって、健康問題や医療にのみ詳しかったのではない。あのシーボルトが「日本のアリストテレス」と呼んでいたというのだから、本物のインテリだったのだ。

 八十四年の生涯で多くの著作を世に出した益軒だが、本書は特にそのなかから『朝野雑載(ちょうやざっさい)』という戦国時代の逸話集を取り上げ、三十九人の有名武将にまつわるエピソードを、現代の読者に読みやすいようにまとめたものである。著者の山崎さんは「戦国コント集」と称しておられるが、私は「戦国武将千夜一夜物語」として楽しんだ。書名のとおり、益軒が毎夜、主君である福岡藩三代藩主・黒田光之に、全部で十五巻もある『朝野雑載』から選び出した逸話を語って聞かせる構成になっているところがミソなのだ。各話の初めで、しばしば「今日も疲れた」とぼやいている黒田光之のストレス解消と気分転換のために、益軒は語る。

 一話ずつ独立しているので、どこから読んでもいい。たとえば伊達政宗は意外(と言っては失礼だが)に趣味人で、料理に関心があり、馳走(ちそう)とは「旬の品をさり気なく出し、主人みずから調理してもてなすことである」と定義していた。たとえば、日向の地にキリシタン王国を築こうとした大友宗麟には、家臣や一門の妻女を奪うという悪辣(あくらつ)な癖(へき)があって、そのため一門内に争いが絶えなかった。たとえば、石田三成が秀吉に見出(みいだ)される契機となった「三献茶」は、鷹(たか)狩りで喉が渇いていた秀吉に茶を所望された三成が、一杯ごとに茶の熱さと量を変えて出したという逸話だが、後の人生で関ヶ原の合戦に敗れ、斬首される直前に湯茶を所望したとき、三成は若き日の自分の手柄であるこの三献茶のことを思い出しただろうか……。滋味もあれば教訓もある歴史余話をじっくり味わいたい。

 ◇やまざき・みつお=1947年生まれ。85年『安楽処方箋』で小説現代新人賞を受賞。医学関係に造詣が深い。

読売新聞
2020年9月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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