『特捜部Q―アサドの祈り―』
- 著者
- ユッシ・エーズラ・オールスン [著]/吉田 奈保子 [訳]
- 出版社
- 早川書房
- ジャンル
- 文学/外国文学小説
- ISBN
- 9784150019570
- 発売日
- 2020/07/07
- 価格
- 2,310円(税込)
書籍情報:openBD
特捜部Q アサドの祈り ユッシ・エーズラ・オールスン著
[レビュアー] 稲野和利(ふるさと財団理事長)
デンマークのコペンハーゲン警察に設置された特捜部Qは、未解決の重大事件を専門に扱う部署だ。署内のはみ出し者だったカール・マーク警部補の左遷先として設立された経緯から全く期待されていなかった特捜部Qだが、当初より配属されたシリア出身のアサドやその後加入したローセなど一風変わったスタッフの活躍もあり、数々の難事件を解決に導くことになる。一話完結のシリーズもこれで8作目となった。今や北欧ミステリーの代表的存在だ。
シリーズの特色は、デンマーク社会の暗部や暗い過去が投影された事件、その割に重苦しくない雰囲気、非常にスピーディーな捜査の進行と事件の解決、脇役の活躍と彼らを取り巻く謎、などにある。
本作では脇役のアサドが実質的な主人公となる。砂漠のラクダに関するジョークを連発するかと思えば、時としてシリアスな表情を浮かべ、底知れぬ能力を発揮する男。「アサドとはいったい何者なのか」という疑問はずっと続いてきたが、遂(つい)に本作ではその謎が明らかになる。キプロスで遭難したシリア難民の写真が報道されたことを契機にアサド自身の壮絶な過去を巡る戦い、離れ離れとなっていた家族を守る戦いが始まる。同時並行的に進行する別の殺人予告事件の捜査とアサド対テロリストの戦いが交錯しながら、すさまじいスピードで物語は進行する。本シリーズに活劇場面は珍しくないが、本作終盤のそれは圧巻だろう。一気読み必至。
前作『自撮りする女たち』では謎だったローセの生い立ちが描かれ、本作ではアサドの過去が明らかになった。シリーズ開始以来の残された謎は、カールが遭遇し心に深傷を負った「ステープル釘打機事件」の真相だけとなった。果たしてシリーズは終焉(しゅうえん)に向かっているのだろうか。作者のみぞ知る。読者としては早く次作が読みたい。そしてずっと続いてほしい。吉田奈保子訳。
◇Jussi Adler‐Olsen=1950年コペンハーゲン生まれ。本シリーズで北欧最高峰の「ガラスの鍵」賞を受賞。
※原題は Offer 2117