高橋葉介と諸星大二郎との「貸し借り」とは? 怪奇幻想からコメディまで魅力全開の新刊『拝む女』の魅力に迫る。

インタビュー

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拝む女

『拝む女』

著者
高橋 葉介 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
芸術・生活/コミックス・劇画
ISBN
9784041093160
発売日
2020/08/28
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

高橋葉介と諸星大二郎との「貸し借り」とは? 怪奇幻想からコメディまで魅力全開の新刊『拝む女』の魅力に迫る。

[文] カドブン

怪談専門誌「幽」の創刊から終刊まで15年間連載を続けていた高橋葉介さん。怪奇浪漫モノや学園モノなど、一話一話趣向を凝らした全30作が、このほど『拝む女』として一冊にまとめられた。作品に込めた狙いから、制作時の逸話や「幽」時代の思い出まで、高橋ワールドの魅力の秘密に迫るべく、お話を伺った。

「怪と幽 vol.005 2020年9月」より
「怪と幽 vol.005 2020年9月」より

――『拝む女』は、本誌の前身の一つである怪談専門誌「幽」での連載作品をまとめた単行本ですが、まず今回の刊行の経緯と概要についてお伺いしたいです。

高橋:「幽」連載中に一度『ヘビ女はじめました』(二〇一三年)という本を出させていただいたんですが、その後「幽」が終刊になって、単行本未収録の話が十一作残っていました。そこで、どうせなら「完全版」として全連載作をまとめなおしたほうがいいだろうということになって、今回の刊行となりました。なので、十五年間「幽」で描かれたものが全部入っています、というのが売りですね。とりあえずこれで全てのお蔵出しが済みました。どこから読んでもいいし、怖い話を期待されると困るけど、変な話が好きな人には楽しんでもらえると思います。

――作品の掲載順が「幽」での連載順とは違いますが、これはどうしてですか?

高橋:私の絵はころころ変わるから、十年も経つと全然違っちゃうんです。だからいっそのことバラバラにシャッフルしてみました。なるべく同じ絵が続かないようにして、連続性のないショートストーリーの寄せ集めというか、アンソロジーのような感じにしたかったんです。

――確かに高橋先生の画風はその時々で変化が見られますが、これらは意図的に変えられているんでしょうか?

高橋:変えようと思って変えていることもあるんですが、基本的に意識しないで変わっていっちゃうんですよね。以前の絵に戻したりすることもできません。どんどん変わってしまうので、自分の昔の絵を見ると、自分の描いたものじゃないみたいでなんか変な感じがしますね。

高橋葉介さん
高橋葉介さん

――画風の多彩さだけでなく、『拝む女』には怪奇漫画の枠に収まらない様々な作風の話が収録されています。

高橋:私の作品は怪奇漫画とよく括られるんですが、実際は怪奇漫画ではないと思っています。そもそも怖くないでしょ? 怖いのは目指してないから。私は変な話が好きで、ただ変な話を描いているんです。

――確かに怪奇幻想だけでなく、コメディあり、不条理ありと、一つのジャンルでは括れませんね。

高橋:いつもまず奇妙な話を思いついて、それからそれをどう料理するか考えているんです。そうしてギャグにするのかシリアスにするのか、オチはどうするのか、って何パターンか思い浮かんだなかから、一番うまくはまるものを選んでいます。ですから素材を活かす料理人みたいな感覚ですね。たまに「感動しました」とか言われるんですけど、そういうつもりで描いてるわけではないんです(笑)。料理法を考えた結果そういう話になっちゃっただけなんです。

――『拝む女』の収録作で、これはうまく料理できたなという話はありますか?

高橋:うまくいったというのとは少し違うけど、「ドラゴン・タトゥーの女」で諸星大二郎先生のキャラクターを貸していただいたのは面白かったですね。

――あれは諸星ファンならずとも、知っている人はニヤリとすると思います。

高橋:あの話のタイトルは、当時やっていた映画から来ているんですけど、背中の龍のタトゥーを普通の龍にするんじゃ面白くないから、どうしようかなって考えていた時、諸星先生のほうから、『拝む女』にも入っている「ヘビ女はじめました」と同じタイトルで漫画を描いていいかって聞いてきたんですよ。そこで閃いて「じゃあ私もキャラクター借りていい?」って聞いたら、「いいですよ」と言うので使わせていただきました。

――それで「幽」二十五号掲載時に、同じ号で諸星先生も「こっちでもヘビ女はじめました」という作品を描かれたんですね。『拝む女』には、その「ヘビ女はじめました」以外にも「~はじめました」とついたシリーズがありますね。

高橋:あれはこういうタイトルをつけたほうが、アイデアが浮かびやすいかなと思ってつけたんです。途中で飽きてやめてますけどね(笑)。そのなかの「アン・デッドはじめました」は、たしかこの頃ゾンビ物が流行っていて、漫画でも小説でもけっこう出ていたので、「自分もとりあえずのっかっておこうか」と思って描きました(笑)。

諸星大二郎氏との“貸し借り”で生まれた「ドラゴン・タトゥーの女」。(『拝む...
諸星大二郎氏との”貸し借り”で生まれた「ドラゴン・タトゥーの女」。(『拝む…

諸星大二郎による「こっちでもへび女はじめました」。(「幽」25号より)
諸星大二郎による「こっちでもへび女はじめました」。(「幽」25号より)

――シリーズといえば、「化烏」や「視ないフリ」など「九鬼くん」という少年が出てくる作品群もあります。

高橋:あれは『学校怪談』みたいな話も入れてみようかなと思って描いたんです。なかでも「押入れの少女」は、ホラーというより青春モノの雰囲気もあって、わりと気に入っています。

――表題作の「拝む女」と「妻を捜しています」は「幽」での連載順でいえば最後のシリーズになりますね。

高橋:このキャラクターで続けようと思っていたなか、「幽」が終わっちゃったんですよね。でも「怪と幽」に移ることになって、キャラクターを引き継ぎつつ、ページ数が少し増えた分、それに合わせた話を考えて、今連載している「魔実子さんが許さない」になりました。

――絵日記風の「信じてください」や、逆から読むと意味が分かる「帰還」など、実験的ともいえる表現の作品も印象的です。そういった実験的作品で特に先生が気に入っているものはありますか?

高橋:この頃から、上下に二分割して紙芝居風に描くようになったのがありますね。コマを分けるより、一枚絵でパッと見せるのが面白いかなと思い始めて。

――「心霊写真」や「ふらんそわ」などがそうですね。

高橋:そういった実験漫画風の作品が描けるところだったんですよ。「幽」は何でもやらせてくれました(笑)。注文やダメ出しなんてなかったし、そのうえお描きになっている他の先生方もみんな好きな人ばかりでしたから、楽しかったですね。諸星先生は特にそうだし、花輪和一先生もすごかったなあ。

上下に二分割して描かれた「心霊写真」。1コマごとに話が進むのが紙芝居風だ。...
上下に二分割して描かれた「心霊写真」。1コマごとに話が進むのが紙芝居風だ。…

――「幽」連載時で特に印象に残っている思い出はありますか?

高橋:やはり「幽」怪談文学賞(第九回から「幽」文学賞)の選考委員をさせていただいたことが、一番の思い出ですね。選考委員のお話が来た時は本当に驚きましたが、漫画家だから素人代表のつもりで行けばいいだろうと思って受けました。『拝む女』のあとがきにも書きましたが、大変楽しかったです。お金をもらってこんな楽しい思いをしていいんだろうかって思うくらい(笑)。

――「幽」での十五年間全体を振り返ってみてのご感想は。

高橋:あっという間でしたね。「幽」は毎回濃い内容で、決して惰性に流されることもなくて、マニアにはたまらない雑誌だったろうなと思います。私自身も毎号他の先生方の漫画や小説を楽しみにしていました。「幽」でいろんな作家さんを知ることができたのもよかったです。編集長(後に編集顧問)の東雅夫さんのことも「幽」で初めて知って、それまであまり意識していなかった編纂者やアンソロジストの名前にも注目するようになりましたね。

――確かに「幽」創刊前とその後では、アンソロジストに対する世間一般の知名度がだいぶ変わったと思います。

高橋:そういえば東さんの『平成怪奇小説傑作集』(全三巻)で舞城王太郎さんを初めて知ったんですが、収録作品の『深夜百太郎』を読んで、創作で『新耳袋』のようなものを書ける人が出てきたのかと驚きました。こうやって怪談がこれからも発展や変化をしていくのなら面白いなと思います。変化していかないと、どんなジャンルも生き残れないですしね。

――この先の令和時代の怪談や怪奇モノは、どうなると思いますか?

高橋:怪談がどうなるかというより、そもそも今のこのコロナ禍の状況がどうなるんでしょうね(笑)。日常に近い現代モノの漫画や小説はどうするんでしょうか? みんなマスクしなくちゃいけないのかな? 今を描くとしたら取り入れなきゃいけないのかなァ。

――自粛期間中、先生はどう過ごされていたんですか?

高橋:ずっと家にいましたね。最近は必要な買い物がある時には外へ出ることもありますが。諸星先生とは月に一回くらいはお会いしていたんですけど、さすがに今年は二月にお会いしたのが最後ですね。諸星先生はちゃんと大人しくされているみたいです。

――日常が戻ったらしたいことはありますか。

高橋:そりゃあ、飲みに行きたいですよ(笑)。ときどき一人では行ってるんですけどね。一人で本を読んで、誰とも話さないで帰ってきます。対面の会食はまだちょっとまずいと思うので、全然行けてませんね。

――早く諸星先生と飲みに行けるようになるといいですね。

高橋:そうですね。お互いに高齢者なので、それまで気を付けましょうねって感じですね(笑)。

撮影:福島正大 取材・文:藪魚大一

KADOKAWA カドブン
2020年09月15日 公開 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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