中年に戸惑う“中年初心者”へ リアリティー抜群の読書エッセイ

レビュー

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中年の本棚

『中年の本棚』

著者
荻原, 魚雷, 1969-
出版社
紀伊國屋書店
ISBN
9784314011754
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

中年に戸惑う“中年初心者”へ リアリティー抜群の読書エッセイ

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 大人は若者に「いまのうちにたくさん本を読め」とすすめがちだけれど、若いうちは現実に体ごとぶちあたるようにして学ぶことが多く、正直言ってゆっくり読書なんかしていられないのではないか。本が必要なのはむしろ中年である。人生の理想形ははるかに遠く、まだまだ走らねばならないが、この先だんだん悪路になってくることも想像されて気がめいる。体力も気力も下り坂だから、初心にかえってやる気を燃やしなおすのも難しい。中年になったときは誰もが中年初心者で、新しい自分を手探りしながらおずおずと生きるしかないのだ。

 だからわたしはこういう本を待っていた。中年になった自分にとまどっている初心者仲間と励ましあったり、中年の先輩や古豪に教えを乞うような読書が、われわれには必要だ。そしてこれは、その本を読むことで気が楽になったり、新しい視点を手に入れて自分をアップデートするきっかけになったりするような本を山ほど紹介してくれる読書エッセイなのである。頼もしい。著者自身の、中年初心者から揺るぎない中年へと進化する歩みに沿って書かれているだけに、リアリティーも抜群だ。

 藤枝静男がいる。色川武大もいる。筒井康隆もいる。かれらと中年について語り明かそうと思えば、わくわくするではないか。将棋のトップ棋士が書いた中年本も読もう。『ガンダム』世代と『ONE PIECE』世代の対立を解説する本もおもしろそうだ。津野海太郎や関川夏央と中年シングル問題を検討し、酒井順子と中年の恥感覚を考えよう。中年テーマの本は、ほとんど無限といっていいほどあるのだなあ。

 わたしがこの本で再発見したのは田辺聖子だ。これまでにも読んできたほうの作家なのだが、新しい魅力に気づいた。本書読了とともに書店に駆け込み、田辺聖子のエッセイを何冊も買い込んできたいま、最高の気分です。読むぞ!

新潮社 週刊新潮
2020年9月17日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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