植物園の世紀 イギリス帝国の植物政策 川島昭夫著

レビュー

7
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植物園の世紀

『植物園の世紀』

著者
川島昭夫 [著]
出版社
共和国
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784907986667
発売日
2020/07/16
価格
3,080円(税込)

書籍情報:openBD

植物園の世紀 イギリス帝国の植物政策 川島昭夫著

[レビュアー] 一條宣好(書店主)

◆偉大なる碩学の「最後の挨拶」

 長くイギリス文化史の研究に貢献してこられた川島昭夫さんの遺著。題名にふさわしく、緑を基調にした美しい装丁にまず目を奪われる。

 植物園と聞いて私がイメージするのは美しい大輪の花が咲き、珍しい生態を持つ植物などを目にすることができる娯楽的な場所である。すぐに「政策」とは結びつかない。しかし本書を読むとそのイメージは一変する。植物園は「政策」の一翼を担う、優れて政治的な施設だったのだ。

 十八世紀のイギリス。香料や染料など生活に必要な製品の生産に関わる植物は、国内での栽培が行われていない場合、高額な関税を支払って輸入しなければならなかった。しかし帝国領土の拡大、輸送技術の進展など様々な要素が変化することに伴って自国領内での植物生産を目指す政治家たちが現れる。それを実現するための最前線基地となったのが、現在における農業試験場や研究所の機能を持っていた植物園である。

 移植や栽培を実現する技術開発や計画推進に関わった存在としては植物園所属の学者はもとより、種苗などを扱う商人や民間のコレクターも挙げられる。商人たちは国力増強への協力と同時に一獲千金をもくろむ。コレクターは収集リストの項目増加を目指す。意識するしないは別として、彼らは持っていた植物の知識でイギリス帝国へ貢献していた点が面白い。

 利益を追求する政治家と商人、研究の進展と収集の充実を図る学者や愛好家、そして真の主役ともいえる植物。彼らが織りなす様相の、なんとエキサイティングなことだろう。ひさびさに文化史を読む喜びが堪能できた。

 川島さんが執筆した著述のテーマは多岐にわたり、古書愛好家としても高名だった。個人的には『キルヒャーの世界図鑑』(工作舎)の訳業が印象深い。名探偵ホームズや南方熊楠の研究にも業績を残した、偉大なる碩学(せきがく)の「最後の挨拶(あいさつ)」にしっかりと耳を傾けたい。ご冥福をお祈りする。

(共和国・3080円)

1950〜2020年。京都大名誉教授、西洋史。著書『植物と市民の文化』。

◆もう1冊 

志村真幸編『異端者たちのイギリス』(共和国)。川島が教えた研究者が執筆。

中日新聞 東京新聞
2020年9月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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