このままでは日本はあやうい 具体論で警鐘を鳴らす

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国家の怠慢

『国家の怠慢』

著者
高橋, 洋一, 1955-原, 英史
出版社
新潮社
ISBN
9784106108723
価格
814円(税込)

書籍情報:openBD

このままでは日本はあやうい 具体論で警鐘を鳴らす

[レビュアー] 宮内義彦(オリックス シニア・チェアマン)

 コロナ禍のこの半年あまり、多くの国民は日本の司令塔はどこにあるのか、最適な政策を打ち出しているのか心配し、漂流しているような気分で日々を過ごしているのではないだろうか。あるいは行政能力がこんなに無かったのかと改めて気が付き、国に対する不安・不信を持ってしまったのではないだろうか。

 本書は構造改革を志し、官僚として種々の試練にさらされながら内側から戦い、更に在野の人となった今も国のあるべき姿を求めて勇敢に発言し続けるお二人の対談である。

 高橋洋一氏は経済活性化を目指すアベノミクスの理論的支柱となり、挫けることなく提言を続け、原英史氏は規制改革を一歩でも進める“志士”とでも呼ぶべき活動を行っていて、前著『岩盤規制』も必読の書だ。

 登場するテーマは、目下進行中のコロナ対策での右往左往ぶりから始まり、この国の現在を作りあげてきたこれまでの政策の、具体的核心部分。中でも話題になったり節目となった問題(いわゆるモリカケ問題を含む)の本質を抉り出している。

 政治行政が本能的に持つ権限の保持、責任の回避といった姿勢は、常に現状維持や欺瞞を作り出し、なすべき改革を止めてしまう。あと一歩で改革が進むという場面で、中途半端に手が打たれてしまうこともある。

 こうした権力機構に対し、本来ガバナンスを働かせるべきは野党、あるいはマスコミのはずだ。国民の期待は大きい。では、果たして日本のガバナンスは信頼できるのか。本書で示されているのは、その機能を果たさないばかりか、無責任でセンセーショナルに動いた結果、社会の動きを止めてしまったり、反対方向に加担する姿である。そうした実例を読んでいると、神経を逆撫でされている気分になる。

 本書は、国の統治のあり方を抜本的に見直さない限り日本はあやういという警鐘を、地に足の着いた具体論で示してくれている。多くの方がそれを知り、少しでも間違いのない社会作りを支えてくれることを願わずにはいられない。

 驚嘆するのは、お二人の行動が一貫していることである。この志を持ち続け、引き続き戦って頂くことを願う。私も少しでも応援したいと改めて強く感じた“適時の書”といえる。

 お二人は、コロナ禍で判(わか)った欠陥は、それでも改善される方向に行くはずだと語っておられる。若干私見を申し上げると、逆にコロナが終息すると先祖返りするのではないか。これが杞憂であれば嬉しいのですが。

新潮社 週刊新潮
2020年9月24日秋風月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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