野球界に転身した門外漢の二人 彼らが敢行した改革とは

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

サラリーマン球団社長

『サラリーマン球団社長』

著者
清武 英利 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163912516
発売日
2020/08/26
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

野球界に転身した門外漢の二人 彼らが敢行した改革とは

[レビュアー] 篠原知存(ライター)

〈低迷するタイガースとカープで、二人のサラリーマンが球団付きとしてチーム改革の舞台に上ったことは偶然ではない。それは個々の球団だけの事情でなく、球界近代化に向けた時代の要請でもあった〉

 阪神タイガースの野崎勝義と広島カープの鈴木清明。野球界に転身した門外漢二人が、どんな壁にぶつかり、どう乗り越えようとしたかを描くノンフィクション。読売ジャイアンツの球団代表だった著者も、時々「私」として登場し脇役を演じる。

 人気球団・阪神で、野崎は「内なる敵」と戦う。既得権を手離さない社内のプチ権力者、努力が報われずに社員のやる気が削がれてしまう構造、声の大きい者の意見ばかり通る会議。先進的なベースボール・オペレーション・システム(BOS)を日本で初導入するも、守旧派に抵抗され……。ダメ企業にありがちな欠点はプロ球団も同じらしい。

 一方、広島の鈴木。ちくわの仕入れ、フィットネスクラブの店長、ドミニカでの野球学校設立など、さまざまな仕事をこなしながら「育成球団」の礎を築き上げていく。

 貧乏球団にはエースも四番も引き止める金がない。育てては去られるの繰り返しだが、鈴木は選手の気持ちに寄り添い、こう言い続ける。「大木がなくなれば、そこに陽が差し、また新しい芽が出る」。大リーグ球団の高額オファーを蹴って広島に電撃復帰した黒田博樹の「男気」の裏には、鈴木の存在があった。

 そんな野崎と鈴木が、球界再編に際して共闘する場面が本書のハイライト。〈球界を支配してきた巨人への反逆である〉。その顛末は……。

 組織の論理やしがらみより、選手のこと、球界全体のことを優先させた二人。プロ野球の「改革元年」には〈利益を棚上げできる反骨者が求められていた〉と記す著者。似た苦労をしたからだろうか、その視線は温かい。サラリーマンだからって、何もあきらめなくていい。

新潮社 週刊新潮
2020年9月24日秋風月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加