男はへなちょこ 元気印の女の子の物語

レビュー

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新版 竹取物語 現代語訳付き

『新版 竹取物語 現代語訳付き』

著者
室伏 信助 [著]/室伏 信助 [著]/角川書店装丁室 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784043568017
発売日
2001/03/23
価格
704円(税込)

書籍情報:openBD

男はへなちょこ 元気印の女の子の物語

[レビュアー] 野崎歓(仏文学者・東京大学教授)

書評子4人がテーマに沿った名著を紹介

今回のテーマは「月」です

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「物語の出で来はじめの祖(おや)」(『源氏物語』「絵合」)として『竹取物語』が後世に遺されたのは、実に興味深いことだ。『源氏物語』と並べると、いっそうその意義は際立つ。

 光源氏は女たちを苦しめる定めを背負った、男の業の深さを体現するようなヒーローである。それに対し、同じ光り輝く存在でありながら(「かぐや姫」の「かぐ」は「かがやく」と同源)、『竹取物語』は男たちを片っ端から袖にし、へこませてしまう元気印の女の子の物語。「どうして、結婚などいたしましょうか」と言い放ち、帝(みかど)の仰せ言さえはねつける。

 男社会の権威主義を前にびくともしない。皇子(みこ)も大臣も大納言も彼女の前ではへなちょこである。これは異界からきた少女のパワーを借りて現実社会でいばっている男たちをこらしめる、批判精神あふれるヒロイン小説なのだ。#MeToo運動の現代にもぴったりである。

 パワーの源泉はもちろん、「月」の神秘にある。かぐや姫が月を見ては泣くようになるあたりから、物語は俄然SF的な面白さを増す。おじいさんの嘆願に応じ、帝は十五夜に軍隊を派遣する。弓矢を構えた二千人もの兵の前に、いよいよ月から天人の一団が降りてくる。千年の時間を超えた物語のスリルに圧倒される。

 天人たちの美しい姿と魔力は、そのまま当時の人々の月への畏敬を表すものだろう。夜空に冴え冴えと輝く月が、いにしえの日本人の心をいかに深く魅惑していたかがよくわかる。

新潮社 週刊新潮
2020年9月24日秋風月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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