「経験者頼みの職場」が「若手が育つ企業」に変わるたったひとつの方法――忙しい職場ほど「マニュアル作り」に時間をかける訳

インタビュー

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小さな会社の〈人と組織を育てる〉業務マニュアルのつくり方

『小さな会社の〈人と組織を育てる〉業務マニュアルのつくり方』

著者
工藤正彦 [著]
出版社
日本実業出版社
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784534057976
発売日
2020/08/27
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

忙しい職場ほど「マニュアル作り」に時間をかける訳

[文] 日本実業出版社

経験者を中途採用することが多い職場は、個人の能力に頼りがちになり、業務が属人化してしまうことが少なくない。なぜ、大事なスキルやノウハウは社内共有されないのか?

「東京ばな奈」など、土産菓子で有名な株式会社グレープストーンの総務・人事部長の武田さんは「『業務マニュアル』を作成することでその課題を解決した」と語ります――

会社の急成長の陰で、あとまわしにされていた「企業の風土づくり」

「東京ばな奈」などのヒット商品を生み出し、急成長した株式会社グレープストーン。企業の成長スピードに社員の育成が追いつけなくなった結果、「即戦力」として中途の採用活動に力を入れ始めました。

しかし、「即戦力」として採用した人材は助っ人外国人のようなもので、ミッションを終えたらすぐに転職してしまうことも多く、なかなか「企業風土」が醸成されないという課題を抱えていました。

──「企業の風土づくり」として、マニュアル作成という方法が挙がったきっかけを教えてください。

新卒を採用せずに中途採用の人材のみで業務を行なっていると、これまでの経験や能力によってどうしても仕事の仕方にも差が出るので、いつの間にか業務が属人化してしまいがちです。その結果、当時は職歴や経歴が異なると社内で使われる用語すら統一されていない状態でした。

社内用語の統一は、一見そこまで重要に思えないかもしれませんが、こういった小さなことから、組織間、個人間のコミュニケーションにギャップが生まれていく。それがクレームにつながり、結果としてお客様に迷惑がかかる――「このままだと会社が崩壊してしまう!」と危機感を覚えたことがマニュアルを作ろうと思ったきっかけです。

──「マニュアルを作ろう」という発想は、武田さんの前職での経験が影響しているとうかがいました。

前職では大手チェーンストアの管理部門にいました。そこでは、あらゆるものがマニュアル化されており、社員やパートはマニュアルを読み込むだけで、一定のレベルを担保することができていました。その経験から、属人的要素を標準化し、企業風土を統一するにはマニュアルが効果的だということはわかっていました。

当時の私が人事部採用担当として若手の研修教育プログラムを作成していたこともあり、その一環として社内の「業務マニュアルの作成」に着手したのです。

一番忙しい部署こそマニュアルを作る

──社内に一定のルールが必要だと感じたのですね。マニュアルを作成するにあたって、まず着手したことを教えてください。

マニュアル作成を始めるにあたって「はじめは最も課題が山積している部署から」と決めていました。マニュアル作成は、本来の業務にプラスアルファされる仕事です。忙しい部署ほど、「こんな忙しいときに、効果が約束されないことに時間を割く余裕はない」と難色を示すのが当たり前です。

しかし、その多忙な部署で「マニュアルによる課題解決」を達成できれば「マニュアル作成→課題解決」のサイクルが、全社的に定着していくのではないかと想定しました。

そこで、当時一番忙しかったディスプレイ部の悩みの解消を目指して、課題を洗い出すところから始めていきました。

──「ディスプレイ部」というのは意外でした。業務マニュアルというと、人事部や総務部などのイメージがあります。

当社の場合、ディスプレイ部というのは、完成した商品をショップ店頭に並べる際に必要な什器、ポスターなどを制作する部署です。つまり、販売に直接かかわる部分かつ、業務プロセスの川下を担う部署です。

お土産屋ショップは、限定品や季節による商品の入れ替わりがとても激しいです。決まった納期のなかで企画や生産の段階で時間がかかると、店頭準備を担っているディスプレイ部が、最終調整のしわ寄せをすべて請け負うことになります。そのしわ寄せは、従業員の「労働時間」で補うしかなく、長時間残業や深夜労働など不健全な勤務体制が続く原因になっていました。

社員から愚痴が出たときほど、会社は変われる

──それだけ忙しいと、ディスプレイ部の社員は「マニュアル作成」に難色を示しそうですが……。

もちろん、最初はまったく共感を得られませんでした。ディスプレイ部の上長からも「この忙しいのにマニュアルなんて作っていられるか。いまは人材教育に時間をかけていられない」と、きっぱりと拒絶されました。ディスプレイ部としては今までのやり方を否定されている気分にもなるわけですから、あまりいい気分はしませんよね。

ですから、「ディスプレイ部が無理なく働いていくにはどうしたらいいのか」を最大限に配慮して、マニュアル作成を進めていきました。業務工程についての課題を洗い出していくなかで、社員たちからぽつりぽつりと意見が出てきました。

中にはほとんど愚痴に近い意見もありましたが、「愚痴を吐露できる関係性」を作っていく過程こそが、このマニュアル作成で最も重要だと考えていました。

なぜなら、愚痴を吐き出すことで、「自分は仕事中、何をストレスに感じているのか」「そのストレスはどうすれば改善されるのか」と、課題について向き合う時間を持つきっかけになるからです。

また、社員からしてみれば、どんな意見が出ても肯定的に受け入れてもらえることで、「みんなで組織作りに参加している」という実感を持つことができたのだと思います。

──社内の課題にあらためて向き合うことができたのですね。

いざマニュアル作りを始めてみると、同じ仕事をしているはずなのに手順や使用しているフォーマットなど、細かいところで個々人によって異なることが発覚し、標準化・共有化にはかなり時間がかかりました。

しかし、その過程で新しい知識が身につき、非効率な業務が見直されるなど、目に見えて状況が改善していきました。ディスプレイ部の社員が「マニュアルを作ってよかった」と素直に喜んでいた様子は、今でも鮮明に覚えています。

「我流」「職人気質」の人こそノウハウを共有して

──忙しい職場の課題を実際にマニュアルによって解決できたわけですね。

私の経験を踏まえると「忙しい」「時間がない」と、目の前の現状に埋没し、変革を起こすことに躊躇している組織ほど、マニュアルの効果を体感できるかもしれません。

社員の自主性を重んじ、「細かいところまでは管理しない」「各人にまかせる」としている企業は、中小企業にこそ多いですよね。そういった企業風土は自由で柔軟に働きやすい反面、「我流」「自分なりの仕事の価値観」に陥りやすく、結果として硬直した、旧態依然とした組織になってしまいがちです。

「我流は時代遅れだから見直せ!」ということではありません。技術やテクニックを磨いてきた腕のいい職人さんからは見習うべき点がたくさんあります。

「我流」の技術やノウハウを共有し、標準化できれば、その価値はより素晴らしいものになります。組織における「我流」の価値を再認識するためにもマニュアル作りは有効といえるでしょう。

──今後の課題をお願いします。

当たり前のことですが、「マニュアルを作って満足して終わり」では意味がありません。確実に取り入れて、会社の利益や社員の働きやすさに還元していかなければなりません。マニュアルを活用することで、新たに課題が発見され、それをどう解決していくかという課題解決能力や改善プロセスが磨かれていきます。

つまり、マニュアルを使って「業務の標準化→実践→課題の再発見→改善・解決」というサイクルを続けることが最も大切です。そのサイクルができていない部分はまだまだたくさんあるので、それが今後の課題ですね。

貴重なお話、ありがとうございました!

日本実業出版社
2020年9月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

日本実業出版社

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