【聞きたい。】柴田勝家さん 『アメリカン・ブッダ』

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アメリカン・ブッダ

『アメリカン・ブッダ』

著者
柴田, 勝家, 1987-
出版社
早川書房
ISBN
9784150314439
価格
946円(税込)

書籍情報:openBD

【聞きたい。】柴田勝家さん 『アメリカン・ブッダ』

[文] 本間英士


柴田勝家さん

■仏教×SFが放つギャップ

 すわ戦国武将か、と思うペンネームと風貌。その正体は、民俗学とSFを織り交ぜた独特の作風を持つ作家である。貫禄ある外見とは対照的に32歳と若いが、一人称は「ワシ」。行きつけのメイド喫茶で執筆している。著者の情報量が多すぎて混乱しそうだが、初の短編集という本書もエッジが効いている。

 表題作の舞台は流行病と大災害で荒廃し、多くの国民が現実世界からVR(仮想現実)世界に移り住んだ近未来の米国。仮想の“新大陸”に生きる米国民に、現実にとどまった仏教徒のインディアンの青年が「救済」を物語り、帰還を呼びかける-という壮大な筋書きだ。仏教思想がSFの世界観に密接に絡んでいく。

 「アメリカが舞台の作品を書きたかったんです。そこからネイティブアメリカン、インディアン、インド、仏教…と連想しました。最初は冗談のつもりでしたが、進めるうちに(仏教とSFの)この組み合わせは面白いのでは、と」

 VR世界で一生を過ごす架空の少数民族を描く「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」など6短編を収録。独特の作風は「ワシが大学時代から続ける民俗学の影響」だという。大学院では「日本における媽祖(まそ)(中華圏で信仰される海の女神)信仰」を研究。その一方、大学時代の文芸部でSFの魅力に気づいた。学究肌で、関連史料や文献を綿密に読み込んだうえで執筆する。真面目なのだ。

 「きっちりと書いたら、ワシは嘘を本当のように書ける。だから一番大枠の部分で嘘をつくのです」

 筆名は敬愛する戦国武将から付けられた大学時代のあだなに由来。朱子学を創始した儒学者、朱熹(しゅき)を描く長編を構想中だという。

 「『善悪とは何か』に向き合いたい。東アジアに浸透した儒教の道徳を学びつつ、SF要素を混ぜて、エンターテインメントとして書けるように頑張ります」

 見た目は武骨だが、穏やかな話しぶりの紳士である。これが「ギャップ萌(も)え」か…。(ハヤカワ文庫・860円+税)

 本間英士

   ◇

【プロフィル】柴田勝家

 しばた・かついえ 昭和62年、東京都生まれ。成城大大学院修了。平成26年、『ニルヤの島』で作家デビュー。

産経新聞
2020年9月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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