シンデレラが人身事故、お菓子の家に死体が……童話の中の主人公が事件に巻き込まれたらどうなる?

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赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。

『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』

著者
青柳碧人 [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575242898
発売日
2020/08/20
価格
1,485円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

シンデレラ、ヘンゼルとグレーテル、眠れる森の美女……。童話の世界で起こった事件の謎に赤ずきんが挑む! 著者渾身の昔話ミステリ第2弾!

[レビュアー] 日下三蔵(書評家)

赤ずきん、シンデレラ、マッチ売りの少女……童話が本格ミステリに生まれ変わりました! おばあさんにワインとクッキーを届けるために旅に出た赤ずきん。行く先々で事件に巻きこまれ、行きがかり上解決することになりました。2020年本屋大賞ノミネート作品『むかしむかしあるところに、死体がありました。』の姉妹本とも言える本作について、書評家の日下三蔵さんが読みどころを解説します。

 ***

 小説推理(双葉社刊)に連載された前作『むかしむかしあるところに、死体がありました。』は驚異的なクオリティのミステリ短篇集であった。このコーナーでも書いたと思うが、昔話をミステリやSFに書き換えるというだけなら、いくつかの先例はあるものの、一話につき原稿用紙100枚近いボリュームで複雑なトリックを盛り込んだ作品となると前代未聞だ。

 2019年4月に発売されるや、たちまちのうちに版を重ね、現在はなんと15万部に達しているというから驚く。著者の数多い作品の中でも、デビュー作『浜村渚の計算ノート』シリーズに匹敵する看板シリーズとなっていくことは間違いないだろう。

 実は昨年、あるパーティーで青柳さんと遭遇して、『むかしむかし~』は面白かったですね! あのシリーズ、バンバン書いてくださいよ、とリクエストしたのだが、青柳さんは、うーん、あれはトリックを考えるのが大変で……と苦笑しておられた。

 気軽な読者の立場からは、昔話は無数にあるのだから、ミステリ作家としては大変な鉱脈を掘り当てたように見えるが、書く身になってみれば、毎回元の話に合わせた独創的で大がかりなトリックを盛り込むのは確かに難しい作業だろう。

 だが、ここに第2弾が、ついにまとまった。タイトルからお分かりのように、前作が日本昔話を題材にしていたのに対して、第2シリーズは西洋の童話の世界が舞台になっている。しかも、赤ずきんが各話に登場して探偵役を務めるのだ。

 シンデレラと一緒に魔女に魔法をかけてもらい舞踏会に行くことになった赤ずきん。だがカボチャの馬車は道から飛び出してきた男を轢いてしまう。シンデレラは男の死体を埋めて隠すが……。(「ガラスの靴の共犯者」)

 お菓子の家で継母を殺したヘンゼルとグレーテルの前に赤ずきんが現れた。そこに隠された真実とは? 驚異の倒叙ミステリ「甘い密室の崩壊」。

 他にどんでん返し連発の「眠れる森の秘密たち」、赤ずきんの旅の目的が明らかになる最終話「少女よ、野望のマッチを灯せ」の全4話を収録。

 全5話だった前作より話数が減って、逆にページ数は増えている。つまり、1話あたりの枚数が増えて、その分トリックの密度も増しているのだ。既に始まっている第3シーズンからも眼が離せそうもない。

小説推理
2020年10月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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