[本の森 歴史・時代]『楡の墓』浮穴みみ

レビュー

5
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楡の墓

『楡の墓』

著者
浮穴みみ [著]
出版社
双葉社
ISBN
9784575242508
発売日
2020/02/19
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

[本の森 歴史・時代]『楡の墓』浮穴みみ

[レビュアー] 田口幹人(書店員)

 去る7月12日、北海道の白老町にアイヌ民族の歴史や文化を展示物や体験プログラムを通じて学ぶことができる施設「ウポポイ(民族共生象徴空間)」がオープンし話題となった。そのニュースを耳にした際、たまたま読んでいたのが、浮穴みみ『楡の墓』(双葉社)だった。

 本書は、歴史時代作家クラブ賞を受賞した『鳳凰の船』(双葉社)に続く、明治開拓期の北海道を舞台にした短編集である。

 前作『鳳凰の船』では、函館を舞台に、願乗寺川を造成した堀川乗経の娘や、初代北海道庁長官・岩村通俊と開墾に力を尽くしたプロシア人商人、函館発展のために事業を興した英国人・ブラキストン、港湾建築の廣井勇など、いずれも実在した人物や事件を扱うことで、明治開拓期の北海道の歴史を垣間見ることができた。中でも、洋式帆船造りの名匠と呼ばれた老大工・続豊治の情熱を描いた表題作「鳳凰の船」は絶品である。

 明治新政府成立後、蝦夷地は北海道と改称され、北海道開拓のために開拓使が設置された。開拓次官に就任した黒田清隆は、北海道開拓が急務であるとし、北海道と樺太にまたがる大規模な開発構想を打ち出した。明治の初め、北海道で開拓を行うことは、想像を絶する苦難の連続だった。

『楡の墓』もまた、その時代背景の中、石狩原野や札幌の厳しい自然を乗り越えて原生林を拓き、北海道の基礎を築いた人びとを描いた短編集である。

 石狩地方を開拓するために、札幌市の土地を開墾し、札幌の街づくりの発端を作った大友亀太郎と、開墾に励む青年・幸吉の成長を描いた表題作「楡の墓」は、移住者の入植地における余所者としての立ち位置に踏み込んだ一篇となっていた。7つ年上の寡婦・お美禰への想いと、余所者がその地で生きる者へと変化してゆく心の揺れ動く様が印象に残る。

 他にも、薄野遊郭の生い立ちを描いた「貸し女房始末」、船上で開拓長官・黒田清隆が札幌農学校の指導者として招聘されたウィリアム・スミス・クラークと聖書の扱いを巡り語り合う「七月のトリリウム」と、いずれも読み応えのある短編が収録されている。

 北海道開拓判官の島義勇の半生を描いた「雪女郎」と開拓された定山渓温泉で偶然一緒になった三人の男が語り合う「湯壺にて」の二作からは、前作『鳳凰の船』にはなかった原住民であるアイヌについての著者の想いを読み取ることができる。

 ぜひ注目してお読みいただきたい。

新潮社 小説新潮
2020年9月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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